「100日後も生きていくヒト」100日間生きたワニ 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
100日後も生きていくヒト
上田慎一郎監督の作品は『カメラを止めるな!』のみ鑑賞済。ふくだみゆき監督作品は初見。
原作は話題になり始めてから飛び飛びで見てざっくり知ってる程度。
一年前原作が終了した時に批判の的になったものの、原作を題材にした映画が公開された今なお劇場の席予約ページへのいたずら、映画の感想ページへ未観賞なのに誹謗中傷・別の作品の感想を書くなどただのリンチの様な状態に辟易し、正直それまで観るつもりは無かったものの観ないことがそのリンチに間接的に関わってしまう様な気がして、ちゃんと観賞した上で良かったか良くなかったかを自分の中で咀嚼する為に観に行った。
結果、名作!と称賛する程ではないものの、俗に言う駄作やクソ映画では無い、現在だからこそ結構刺さる作品だと思った。
前半の内容は上田監督が『この平凡な素晴らしき日常。そんな日常のコマとコマの間に流れる時間を描きたい。』『最初は実写映画として考えていて。ワニのかぶりものではなく、人間に置き換えて実写化を企画していたんです』と語ってる通り、アニメなのにアニメよりも実写映画に近い生々しさがある演技や間の取り方が絶妙で、登場人物が擬人化した動物かつ絵本の様なデフォルメされてるにも関わらず学校や職場での友達として会ったことがある様な親近感が湧いた。
ワニくんの恋のシーンも友達の恋愛を見守っている様で、思わず友達として一言アドバイスしたくなるほどだった。
そんなワニくんがネズミくんに「今告白せずに後悔するか、告白して後悔するか」って選択を迫られて(少なくとも劇中は)言われてから躊躇せずに告白しに行くのを見て、コロナ禍以前に後で行かずに後悔しそうなイベントへはお金や距離の問題が無い限り休日の度にそこここへ積極的に行っていたことと、今はその気持ちを忘れていたことを思い出した。
そして後半は、ワニくんを失って溜り場だったネズミくんの自宅に集まらなくなったり、いつも食べに行ってたラーメン屋に行かなくなり自宅でラーメンを食べるシーンが、(登場人物がマスクを着けてないってだけで)そのままコロナ禍を経て友達同士の旅行やイベントごとなどの集まりが減ったり無くなり、緊急事態宣言が明けても以前の様に遠出をしなくなっている今の自分の状況にも見えてきてた。
そんな中で積極的に人と関わっていこうとするカエルくんと、そのカエルくんが「今告白せずに後悔するか、告白して後悔するか」ってセリフを引用していることが、カエルくんがワニくんがいなくなって(世界がコロナによって変わって)しまっても新しいことに挑戦しようとするコロナ以前のあの気持ちを忘れないことを伝えてくれてる気がした。
個人的にはいくつか気になった所もあった。
・劇中出てくるラーメンとみかんはシチュエーション込みで観賞後めちゃめちゃ食いたくなった
・映画の中で一番描き込まれてる物が桜の蕾だったのはツッコミ所なのかな?(笑った)
・ネズミくんの顔が脳天辺りの輪郭を描いてないのでネズミじゃなくUMAを見ている様な違和感があり、最後まで慣れなかった
・若干音楽は泣き所を演出しようとする誇張表現は感じたけれど、個人的な塩梅かも。
・自分もそこそこ感情移入していたものの、後ろの席で見てたおじいさんは笑いのシーンでは思わず声が出ちゃう位笑ってたので、ネットでいつでも友達と繋がれる若者よりも高齢者の方が感情移入したり刺さるのかも。
上田監督が『制作が始まった矢先、コロナ禍となり世界は一変しました。それに伴って脚本を大きく書き直しました。時代を越える普遍的な物語でありながら、今しか創れなかった、今観て欲しい映画にもなると思っています。』と言っていたけれど、(公開延期したのが結果的に)確かにコロナ以前でもコロナが収まった後でもない今見るからこそ私達に伝わるメッセージ性があったと思う。
SNSで連載してた作品は結末を見届ける『100日後に死ぬワニ』だったけど、映画版は結末を見送る『100日間生きたワニ』なんじゃないかと思ったし、原作観たから映画はいいやって決めつけてる人こそ見て欲しい作品。