「気持ち悪い映画」偶然と想像 beast69さんの映画レビュー(感想・評価)
気持ち悪い映画
毎週のように良質な新作映画が上映されまくりで、嬉しい昨今、今週は珍しく観たい新作が無く、それでも何か観たいと思って探したら、偶然出てきたのが、この映画。昨年の公開時に観に行って、余り引き込まれないのに我慢して3時間を観終えた『ドライブ・マイ・カー』と同じ濱口監督による3つの短編集との事。予告編を観たら、意外と自分の好きな作風のように思えたので、映画館へ足を運んだ。あの映画がアカデミー候補になり、最近うるさ過ぎるくらいにあちこちのメディアで絶賛、大宣伝されている影響もあるようで、本当に映画好きな人達がそこそこ集まってる印象。
第一話『魔法』
タクシーに乗った若い女友達同士の長い会話。まだ特別な関係になってはいないが、奇跡のような出会い話が語られます。この長い言葉の応酬が実に見事なシナリオで、上手いな~と感じました。「下品で汚い言葉を使う事がカッコいい」と信じている、日本の中二病的な女子が良く表現されています。その後の展開も面白く、退屈だった『ドライブ~』とは違って、引き込まれます。しかしながら、この男女関係が見ていて非常に気持ち悪く、受け入れられないものを感じます。
第二話『扉は開けないで』
これもまた脚本力が素晴らしく、映像は良くても脚本がダメ過ぎて評判のワリにはイマイチだな~と感じる事の多い邦画界では、一線を画すモノを持ってると思いました。気持ち悪い大学生と不倫女のカップルがいて、男は単位取得を認められないからって、人が大勢見てる前でわざと大声を張り上げて土下座までする恥晒しなゴミクズ野郎。たかが就職内定がダメになったくらいで教授に恨みを抱き、女にハニートラップを仕掛けさせます。教授が賞を取ったベストセラー本の中に過激なセックス描写があり、これを女が朗読するシーンをやたらと長々と聞かせられるので、観客席の方ではどう反応すればいいのか、困ってしまうような空気感が漂っていました(笑)。性格が悪い監督の観客への嫌がらせでしょうか?人によっては不快に感じたり、気持ち悪く思うお客さんもいると思うので、余り安直に他人にはオススメしにくい映画かなと。物語は騙しに来たつもりの女が自分の弱さを告白したり、そんな彼女を励まして勇気づける教授と、心が繋がり合えるような良い関係になりながらも、最後の余計な後日談ですべて台無しになっています。最後のオチで人を崖から突き落として喜ぶような終わり方になってるのが残念。あの後日談で台無しにしなければ、もっとマシになった気がする。そもそもスマホの大事なデータはその場でやり取りすればいいだけなのに、わざわざ家でPC使うとか、疑問点も多い。それはともかく、ここで最も良かったのが、渋川清彦の演技の素晴らしさ!これには唸らされました。
第三話『もう一度』
一話と二話は気持ち悪かったですが、この三話はそれほどでもなく、ストーリーに少し無理がある気がしましたが、比較的良かったです。この三話だけだったら、他人にオススメ出来るかも。この三話だけメインの登場人物が若くなく、同窓会から帰った中年女性が昔の同級生らしき女性と偶然出会い、今まで経験しなかったほどの深い心情を吐露するような関係性に発展するところが見事なシナリオ。初めの2話とは違い、最後は新たな希望が抱けるような終わり方になっていたのも良かったです。
この監督は少し過大評価され過ぎている気もしますが、この映画を観ると、演出とか映画的手法の面で確かに才能が豊かな人なのだろうなと感じます。しかしながら、本当に人間として大事なもの、映画を観に来た人に与えられる大事なもの、それが決定的に欠けてるような感じがあって、それがどうも受け入れにくい何か嫌なものを感じてしまうんだと個人的に思います。こういう映画があっても面白いとは思いますが、やはり、親しい人に自信をもってオススメしたくなるような、そんな映画が私にとっての良い映画ですね。ちょっと辛口評価になりました。
追記:中盤辺りで、イビキをかき始めたお客がいました。映画館が好きで、ほぼ毎週来ていますが、イビキ客は久しぶりです。他の映画と比べて動きが少なく、会話劇で魅せるのがメインの作風だけに、眠気が生じる人もいるかもしれないなーと思いました。出来るだけ充分に睡眠を取って、映画館にお越しください。