「必然の3部作」偶然と想像 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
必然の3部作
今年の締めはこの映画!と、観る数日前からわくわくしていた。シアターが暗くなって映画が始まる瞬間、2時間後には終わってしまっている…と早々と名残惜しさが。期待どおりの、濱口監督らしい3部作だった。
3つの物語に、直接の繋がりはない。登場人物も場所もばらばらだ。けれども、3つの並び方は絶妙だった(ぶつかり合い、誘いかけ、繋がりの修復)。すっと始まる第1話は、女友達との他愛ないやり取りが延々と続くと思いきや、彼女が乗ったタクシーと同様に物語は急展開、泥沼の一歩手前となる。親友、新たな恋の予感、元恋人…と相容れない3人。そこから再び、ふわりと予想外の展開へ。クラシカルな映画手法に、気持ちよくすっかり引き込まれた。そして、2話へバトンを繋ぐ。
第2話は、個人的には一番面白かった。第1話の反動のように、軽やかな可笑しみがあふれている。マイペースで捉えどころのない小説家兼教授を演じる渋川清彦さんが、とにかく良かった。彼はまったく揺るぎなく、周りがあたふたと振り回され、変化していく。打算から出会ったはずのヒロインは、会話を重ねる中で、自分の心の奥底を見出す。そんな高揚感もあってか、ちょっとした踏み外しが、唖然とするほどの大惨事を招いてしまう。
第3話は、偶然の再会に説得力を持たせるべく、ウィルスの拡散でメールやSNSが機能していないという設定がなされている。とはいえ、1話、2話と心地よく振り回されてくると、そんな作為的な設定も、すんなり受け入れられるというものだ。物語自体は、ある意味、最も穏やか。旧友との思いもよらない再会から、2人は今の自分の再発見や過去のやり残しに気付き、ぎこちなくもあたたかな共同作業に至る。
「ドライブ•マイ•カー」の家福が役者たちに求めたように、登場人物たちは感情を削ぎ落とし、淡々と言葉を重ねて物語を紡ぐ。だからこそ私は、五感を研ぎ澄ませて彼らの感情を押し図り、自分ならどうするだろうと想像する。彼らが偶然出くわすシチュエーションは、実生活では遠慮しておきたい悩ましさに満ちている。自分はスクリーンの彼らを眺めていればよい、と気楽に高みの見物をしていたはずが、いつしか物語に引き込まれ、そこに居合わせているかのような切実さが胸に迫る。そして今もなお、ふとした時に彼らを思い返し、語られなかった背景や、その後の成り行きを想う。映画が、日常に重なり溶け合っていくのは、つくづく幸せな体験だ。
本当に偶然なのだけれど、この映画を観る直前に、古い友人から久しぶりに連絡があった。年賀状がいらなくなるくらい近況をやり取りし、ふっと軽やかな気持ちになった。この偶然は、本作との出会いとも相まって、これからの自分に、きっと欠かせない出来事になっていくと思う。