劇場公開日 2021年12月17日

「濱口竜介作品の世界をより明瞭にするオムニバス、言葉選びのセンスに驚く」偶然と想像 たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5濱口竜介作品の世界をより明瞭にするオムニバス、言葉選びのセンスに驚く

2021年12月17日
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鑑賞方法:映画館

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いくつもの偶然と広がる想像。言葉通りとも行かない、多角的な見方とその展開に呆気を取られる。3話それぞれ面白く、フランス映画のような品の良さと、邦画だからこその会話劇に仕上がっているのが印象的だった。

まずは各話見ていく。1話の『魔法(よりもっと不確か)』は、キャストの相性もあるが、1番好きかも。友達の新たな恋人候補が実は2年前に別れた元カレで、居ても立っても居られず…。リズムに刻まれた言葉の重さと、裏打ちされるように構築される必然へのフラグ。想像を形にした独特のアプローチも絶妙で、緻密さと大人びた台詞回しに酔いしれる。作品の中では最もポップな気がする。

2話の『扉は開けたままで』もまた、独特なオーラが新たな体験を呼び起こす不思議な作品。大学生の専業主婦が、留年したセフレに頼み込まれ、復讐をするが…。玄理のきれいな声と、アンドロイドの様に受け答えする渋川清彦の会話に悶々とした空気を覚える。人間の変態な部分が顔を出し、想像つかない世界へ誘う。言葉の文がくすぐったい。

3話の『もう一度』も独特なSF味を帯びた現実の話。コンピューターウイルスによって連絡が出来にくくなった時代、確かな距離を見失った二人に起こる偶然とは…。こちらは少し平たくも分かりやすい作品であるが、優しさを感じる。

オムニバスとは言え、その空気に混じり気はなく、監督の一貫した雰囲気と、時折顔を出す言葉選びに驚く。それが実に人間の滑稽な部分を引き出しており、驚きと発見をくれる。重厚で味わい深い世界観が、マイルドかつオーソドックスに見せてくれる。

まだ『ドライブ・マイ・カー』に続き、濱口竜介作品2作目の為、その本質を理解した訳ではないが、海外で評価される理由と、洋画好きが唸る理由が分かる。こうしてミニシアターでかけてくれる所も含め、芸術家の域にいるのだと思う。凄く新鮮で愉しい映画体験だった。

たいよーさん。