「全編に魅力的な要素が鏤められて快感が伝わってくる秀作」仕掛人・藤枝梅安 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
全編に魅力的な要素が鏤められて快感が伝わってくる秀作
TVドラマ『必殺仕掛人』等のシリーズは現在でも毎日、BS、CSで放送されている。もう数十年前のドラマなのに、これだけ放送され続けるのは、いかに優れていたかの証明だろう。
何よりあの斬新な映像美学に小生はやられた。そしてマカロニウエスタンに影響されたBGM、痛快だがドロドロしていない様式化された勧善懲悪、バリエーションに富んだ殺人方法、首の骨を折って殺す様子をレントゲン写真で見せるユーモア――それらは今見ても見飽きないのである。
さて、その元となった『梅安』シリーズの方だが、小生は小林桂樹を何作か見たくらいで、実はあまり知らない。原作も読んでいない。しかし、『仕掛人』とは異なり、江戸の街並み、梅安の人間性や食事風景、彦次郎との掛け合い等々に比重が置かれた、いかにも人間ドラマらしいドラマだと思う。
本作はその最新版『梅安』で、豊川悦司と片岡愛之助のコンビがメイン、さらに菅野美穂、天海祐希等の大物俳優が多数名を連ねている。
やはりまず映像が美しい。『仕掛人』ほど外連味に満ちているわけではないが、落ち着いた色彩と構図がいい。
次にいいのが梅安と彦次郎の食事の数々。そして彼等の友情に満ちた掛け合い。
豊川は『必死剣鳥刺し』で見た時、何だか薄汚いおじさんになったなあwという印象を受けたものだが、何度も見ているうちに所作や発声、活舌のよさに年齢なりの色気を感じるようになった。本作でもその魅力は変わらない。
最後に梅安、彦次郎の仕掛けの工作と、殺される人々との関係や、梅安に恋慕するおもんの仕草。
全編にこうした魅力的な要素が鏤められていて、見ていて話の筋とは無関係に快感が伝わってくる。
決して傑作とか名作という種類のものではなく、いつでも落ち着いて安心して楽しめるファーマットの秀作だと思う。