「「時代劇だから」と敬遠する人にこそ観て欲しい一作。」仕掛人・藤枝梅安 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「時代劇だから」と敬遠する人にこそ観て欲しい一作。
時代を代表する様々な俳優が演じてきた藤枝梅安役を、豊川悦司が務めた二部作の第一作にあたる本作。池波正太郎の代表的作品だけに、様々に錯綜しながらもそれぞれ味わい深い人間関係、そして池波作品ではおなじみの、ひたすら美味しそうな料理が印象的な一作です。
豊川悦司は還暦を迎えてますます表情に渋さが加わり、また演技も円熟味を増していて、寡黙だがどこか優しさと愛嬌が漂う梅安を好演しています。むしろちょっと美声過ぎるところが目立つほど。
東映京都撮影所が手がけたという映像は隅々まで丹念に描かれていて、陰影を効かせた一つひとつの場面の美しさに圧倒されます。人間ドラマとしてももちろん楽しめる作品ですが、この映像の質感は特筆に値します。前述したように、映像の多くは陰影を強調しているため、場合によっては人物の表情も判別困難な程です。しかし、特に片岡愛之助は、視線の使い方が絶妙で、さすが歌舞伎役者としての圧倒的な存在感を放っていました。
池波正太郎と言えば料理、特に鶏鍋がお約束ですが、本作で登場する料理もどれも非常に美味しそうで、かつ梅安(豊川悦司)と彦次郎(片岡愛之助)の分かちがたい絆を象徴する存在として描かれており、この点でも感心させられます。いわゆる「悪女」の描き方もまた、池波正太郎作品の風味を十二分に再現していますが、現代の視点から見ればやや時代がかった印象を与えてしまうことも事実。ここはもう少し工夫があれば、と感じました(生い立ちを描写するなどの脚本上の配慮は見られたのですが)。
ともあれ劇場で十二分に堪能できる極めて上質の時代劇である事は間違いないし、次作の公開もと今から楽しみです。「時代劇」だから古くさいんじゃないの?と思っている人にこそ観て欲しい作品です。