「時代劇好きなら観ておくべき作品」仕掛人・藤枝梅安 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇好きなら観ておくべき作品
「鬼平犯科帳」や「剣客商売」と並ぶ池波正太郎の代表的な時代小説「仕掛人・藤枝梅安」を原作とした作品でした。鬼平などもそうですが、梅安先生シリーズもこれまで何度もテレビドラマ化、映画化されており、今回は梅安役を豊川悦司が、相棒の彦次郎役を片岡愛之助が演じており、その他のキャストも天海祐希、柳葉敏郎らが起用されており、近年製作された創作物の時代劇映画としては、異例と言ってもいいほどの豪華な作りでした。(そもそも戦国時代と幕末物以外の時代劇が、映画・テレビを問わず新しく作られることすら少ないのが現状ですが。。。)
本作のストーリーは、原作でも最初の作品となった「おんなごろし」を土台にしたものでした。金で殺しを請け負う仕掛人の梅安や彦次郎ですが、相手が女性だと躊躇いがあるのか、はたまた請け負った仕掛けの裏に納得できないものを感じたのか、しきりに「女は怖い」というセリフを発していたところが印象的でした。ミソジニーやジェンダーフリーに対する考え方が急激に変化し、数十年前の時代劇なら普通に発せられていたこの類のセリフですが、最近は時代劇の再放送以外では殆ど耳にしなくなっていました。
そもそも時代劇が新たに作られることが少ないこともありますが、新作の時代劇が作られても、現代的な思考回路をもとに製作しているため、この手のセリフはご法度になっている感があります。だからこそ新作時代劇映画でこのセリフを耳にした私は、ちょっとビクッとしてしまいました。まあ池波正太郎の原作にもこのセリフはある訳だし、本作は不特定多数が観るテレビではなく、劇場公開される映画なので、原作の世界を再現するという意味では何ら問題はないものと思いますが、時代が時代だけに時代劇ファンの私ですら、妙な違和感を覚えてしまったのが、実に不思議な感覚でした。
違和感と言えば、梅安が住む品川台町の街並みのバックに、実際の距離からすればあまりにもデカ過ぎる富士山が描かれたのも、ちょっと笑ってしまいました。確かに月夜の晩に富士山をバックにした街並みの夜景は実に綺麗なのですが、この画面を観て、ふと昨年公開されたブラッド・ピット主演の「ブレット・トレイン」で描かれた、西洋人が思い浮かべそうな日本の風景を思い浮かべてしまいました。エンドロールでも、役者の名前が日本語とともにアルファベット表記も併記されていましたので、海外での上映も視野に入れているのかも知れませんね。そのための富士山だとしたら、ちょっと複雑な気分ではあります。
あまり内容に触れないままに総括したいと思いますが、本作は豊川梅安の一作目らしく、今年4月に二作目が上映されるとか。そちらも観た上で最終的な評価をすべきなのかも知れませんが、とりあえず本作については、最近稀な創作物の時代劇映画であり、かつキャストも豪華であり、何よりも原作が池波正太郎作品と言うこともあって安定感があるので、ちょっとした違和感はあったものの、星4の評価としたいと思います。