劇場公開日 2023年2月3日

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「時代劇の先行きが心配」仕掛人・藤枝梅安 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0時代劇の先行きが心配

2023年2月3日
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鑑賞方法:映画館

今年は原作者の池波正太郎の生誕 100 周年ということで、二部作として製作されたものであり、第二部の公開は 4/7 に予定されている。原作を読んだのは、もう 40 年以上前のことである。これまで緒形拳、田宮次郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙が演じて来た梅安の風貌は、原作によれば、坊主頭に六尺(180 cm)ほどの大男で、両目はドングリのように小さく、額は大きく張り出し無骨な印象というので、豊川悦司はかなり原作寄りのキャスティングではないかと思った。

梅安の生い立ちについても原作の設定が踏襲されており、社会保障のない時代に親の愛情に恵まれなかった話が回想されるが、その内容がほぼ同じでやや多かったのが緊張感を削いでいたような気がした。回想されるたびに新たな情報を盛り込むようにすれば避けられたはずなのに残念なことであった。

仕掛け人にはルールがあって、仲介者を経て金の受け渡しをする殺人請負のシステムを「仕掛け」と呼び、それを実行する殺し屋を「仕掛人」と呼ぶ。依頼は必ず「蔓」と呼ばれる仲介者を経由しなければならないなど、基本的に以下の順番を経る。
1. 「起こり」と呼ばれる依頼人が蔓に代金と標的、事情を話し、殺しを依頼する。
2. 蔓はその話の内容から仕事として成り立つかを見極める。
3. 蔓は難易度や状況など、依頼に合った仕掛人に対して依頼を持ちこむ。
4. 依頼を受けた仕掛人は前金(半金)を受け取る。
5. 標的を殺害する。
6. 蔓は仕掛人に後金(半金)を払う。
仕事を請けて前金を受け取った場合、原則として降りることはできず、死んでもやりとげねばならない。

仕掛けを受けるかどうかの判断は、基本的に蔓の仕事であり、仕掛け人は業務の難易度は判断できるが、「起こり」が誰なのかや、標的がどのような人物なのかについては十分な情報が与えられない。その状態で前金を受け取るのであるから、標的が何者であろうと業務を遂行しなければ自分の生命が狙われることになる。こうした仕組みは、現在社会問題化している闇バイトを使った連続強盗の仕組みとよく似ていて気味が悪いほどである。

ところが、映画中でこうした説明が一切ないのはどうしたことかと思った。観客全員が原作を読んでいるわけではないのであるから、最低限のルールの説明は不可欠なはずである。観客の予備知識を当てにした脚本など書くべきではない。

役者は主役級の面々は実力者が揃えてあって申し分なかったが、痛感したのは存在感のある悪役がいなかったことである。かつては佐藤慶、成田三樹夫、戸浦六宏、神田隆、田口計、伊藤雄之助など錚々たる顔ぶれがいたが、ほとんどの役者が物故しており、人材の枯渇が寂しい限りである。

仕掛け人は自分で善悪など考えず、指示に従ってゴルゴ13のようにマシンとして業務を遂行するのが理想であるが、それではあまり面白い話にはならない。上記のルールと組み合わせて、前金を受け取った以上相手が誰でもやり遂げるしかないという切迫感があれば、かなり面白くできたと思うのだが、見ていて歯痒いほど面白さを捨ててしまっていたように感じられた。これでは時代劇の先行きは危ぶまれるばかりである。

池波正太郎の食べ物へのこだわりや蘊蓄も原作の楽しみであるのだが、せっかく食べ物を撮影する場面が多いのに、薄暗い部屋で遠くから見せるだけでは、どれも全く美味しそうに見えないのに落胆させられた。もう少し気を遣って欲しかった。殺陣のシーンは血飛沫などもリアルに出るのに、着ている着物は切れず、何人斬っても刀には一滴の血糊も付いていないなど、著しくリアリティを損ねていたのも残念であった。
(映像4+脚本3+役者3+音楽3+演出3)×4= 64 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2023年2月4日

かなり緩くね。半金受け取ったら死んでもやめられないとはなかった。

アラ古希
トミーさんのコメント
2023年2月4日

仕掛システムの説明有った気がしますが・・

トミー