「ありきたりな青春恋愛モノの皮を被った……」ひらいて といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
ありきたりな青春恋愛モノの皮を被った……
事前知識は全くない状態で鑑賞。ポスターを見て「青春ラブストーリーかな」と思っていましたが、「予想外にハードな内容だった」と多くの映画レビュアーから阿鼻叫喚が聞こえてきたので興味を持って鑑賞です。評価が高かったこともあり、結構期待しての鑑賞でした。
結論ですが、正直私にはあんまり刺さらなかったんですけど、かなりクオリティーの高い映画でした。ところどころ表現や演出や台詞が詩的なシーンがあって、「もしかして原作は小説かな」と思っていたら案の定綿矢りささんの小説が原作とのこと。やはり芥川賞作家、表現が凄い。台詞での場面や状況説明がかなり少なかったため、結構真剣に観ていないと理解できないシーンもありましたね。特にラストシーンは一瞬どういうことか分からなかったんですが、ちょっと考えて「なるほど」と納得しました。変に後日談とか差し込まないで綺麗にスッパリとエンディングに突入する映画は良い映画です。
・・・・・・・・・
明るくて可愛いクラスの人気ものの木村愛(山田杏奈)は、クラスメイトで物静かな秀才である西村たとえ(作間龍斗)に好意を寄せていた。愛はたとえが人目に付かないところで誰かからの手紙を見ていることに気付く。ある日、友人グループと悪ふざけで夜の学校に忍び込んだ愛は、たとえのロッカーから手紙を回収し、手紙の差出人が糖尿病を患った陰気な女子生徒である新藤美雪(芋生悠)であり、二人が恋人関係であることを知る。嫉妬を抱いた愛は美雪に近づき、友人のふりをすることにする。
・・・・・・・・・
流石、原作は芥川賞作家でもある綿矢さんの小説だけあって、登場人物の心情や言動が複雑で、尚且つ台詞での心情や状況の説明少ないため、ポスターなどから感じられる「青春恋愛映画」みたいな雰囲気とは明らかに一線を画す文学的な映画になっていました。
愛はたとえに対して恋愛感情を抱いていますが、たとえは愛の誘惑には一切なびかずに彼女である美雪を裏切るようなことは決してしない。まるで聖人のような描かれ方をしています。可愛い女子が目の前で服を脱ぎ出して、冷静に「服着て」と言える高校生男子がこの世の中にいるだろうか。いや、いない(反語)。
愛は「好きじゃなくていい」と関係を迫るシーンがありましたね。その後に、クラスメイトで友人のミカと健がラブホテルに入っていくシーンがあり、愛はそれに対して嫌悪感を抱く。ミカは健が好きだが健はミカに対して恋愛感情は無いのに、そういう行為に及んでいることに対する嫌悪感です。しかしながらそれって、たとえに彼女がいるのを知っていながら服を脱いで関係を迫った愛が言えたことじゃないんですよね。ネットスラングでいうところの「おまゆう」ってやつです。
また、ラストシーンで美雪が愛に送った手紙を読むシーンも素晴らしい。映画冒頭のシーンと繋がる演出になっていて、最後に美雪に「また一緒に寝よう」と言ったのは、美雪と友人でいたいというのを暗に示しているんですよね。
全編を通してこういう繊細な描写が多く、表現がとにかく上手い。小説的というか、文学的というか。観終わった後も頭の中で咀嚼することでどんどん味わい深くなってくるスルメみたいな映画でした。面白かったです!オススメです!!