「素晴らしい以上の出来映え」ひらいて やまあんさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい以上の出来映え
綿矢りさの原作の熱狂的なファンです。ネタバレあります。
ファンゆえに当初は映画に対して少し懐疑的でしたが、度肝を抜かれるくらい良かったです。
結局は11回も映画館で見ることになりました。見れば見るほど愛着が湧く素敵な映画です。
山田杏奈さんが愛ちゃんの役で本当に良かったです。他の人なら多分文句を言ってます。
愛ちゃんは「瞳がぼんやりすすけて、薄暗い」、「刺してくる瞳」、「目が野良猫のように光る」、「目つきがすさむ」など瞳の描写が多いので、どう演じ切るのかと思っていたら、ほぼ完璧でした。
美雪に「愛ちゃんこわい」と言われるシーンでは、本当に瞳が暗くなっていて、びっくりしました。
愛ちゃんの変化の表現が秀逸です。
序盤はヘアアイロンで熱心に髪を整えて、マニキュアも塗っていた愛ちゃんですが、だんだん髪がバサバサになり、爪もボロボロになります。
愛ちゃんは心がパタパタしてしまうんですね。ずっと開いていたり、ずっと閉じていたら楽なのに。
心と体がちぐはぐで、自分で自分の人生の展開に追いつけていない様子が愛しくなります。
愛ちゃんはたとえからも美雪からも「ウソをついているから瞳が暗い」みたいなことを言われてフラれるわけですが、ふたりはちゃんとその後に愛ちゃんに対して心をひらいてあげるんですね。
たとえは愛ちゃんの顔を両手で包んであげて、美雪は愛ちゃんに手紙を書いてあげます。
愛ちゃんがその後どういう人生を歩むのかは分かりませんが、心をひらいてもらえた愛ちゃんなら大丈夫だと思わせる感じもいいですね。
たとえと美雪にしても、いつまでもふたりだけの美しい世界に引きこもり続けられたはずはないし、愛ちゃんに無理やりこじ開けられて結果的には良かったのだと思います。
私は今まで1000本以上の映画を見ましたが、個人的ベスト・ワンの地位に躍り出ました。
以下は細かい点です。ストーリーの大筋には関係ありません。
教室で制服を脱ぐときに愛ちゃんの右手が一瞬だけ躊躇する。胸のリボンに機械的に手を伸ばさない。意図的かどうかは分からないが、良い感じ。
愛ちゃんの飲むジュース。ぶどうジュース(美雪に飲ませる)、トマトジュース(家)、フルーツジュース(学校)、オレンジジュース(カラオケ)、最後が炭酸飲料。フラれて美容を気にしなくなった感じが出ていて良い。ちなみに映画館で飲んだジュースは何か分からない。
たとえに数学の問題を教えてもらうときに、さりげなく髪を耳にかきあげる愛ちゃんがかわいい。ただし原作ではピアスをしているが、映画ではしていない。優等生キャラなのでしていなくて良いと思う。
文化祭のダンスが良い。坂道シリーズの真似をしている。原作にはないが、綿矢りさはアイドル好きなので良い感じ。
愛ちゃんの瞬きが少ない。あまり目線も動かない。愛ちゃんらしくて良いと思う。
愛ちゃんの部屋に「LGBTの現状と課題」という本があった気がする。愛ちゃんが元から性的マイノリティに興味があった感じになりかねないので、これはない方がいいかと。
愛ちゃんが盗んだ手紙の枚数と美雪に返す手紙の枚数が違うような。全部返してあげてね。
橋の上で美雪に呼び止められる前と後で愛ちゃんが帰って行く方角が逆になるような気が?
まぁどうでもいい細かい点が気になるくらい何度も繰り返し見たということです。
本当に素晴らしい以上の出来映えです。この映画に出会えて良かったです。