「いやあ、ことごとくはまらなかった。芳根さん、ごめん。」Arc アーク CBさんの映画レビュー(感想・評価)
いやあ、ことごとくはまらなかった。芳根さん、ごめん。
直前に原作を読んでから観に行ったのが、明らかに裏目に出ちゃった。ことごとくはまらなかったあ。少しネタバレしていると思いますので、まだ観ていない人は、以降お気を付けください。
-------------------- 以降、多少ネタバレあるかも・ご注意願います --------------------
原作を読んだ自分の印象は、「乾いた調子で淡々と描かれる、それでいてテーマは壮大なSF」 だったが、映画はウェット、抒情的で芸術的な文芸作品といったテイストに感じた。そこが自分にはまらなかった理由のひとつだと思う。
原作と映画は別々の作品だということは、もちろんわかっているつもりだが、「原作のプロットだけ借りた映画」 とすら思った。自分が感じた "原作が伝えていること" と、"映画が伝えていること" は似て非なるというか、自分の感覚では正反対に近いと感じたから。原作「技術の進歩によって永遠の命という選択肢も選べるようになった人間、という環境で人間はどんな選択をするのか」という話かと思う。だからタイトルは「(終わりのない)円がよいのか、(初めと終わりのある)円弧がよいのか」 という意味合いから「アーク(円弧)」なのだと思う。一方、映画は、そもそも人間が命を扱うことへの潜在的な抵抗があって、終わりのない円 を否定しているように思う。
エマと天音を対立構図で描いている点など、原作を読んでから観た自分にはいくつか気になった。原作の天音は、あくまでエマの延長線上にいる。天音はその手段を実現させ、エマはその手段を用いない、という違いはあるが、「その手段は必要」ということは二人の共通する意思であり、その上で、「でも私は使わない=私はそれを選択しない」というエマの自由意思が描かれていたように思う)。
この映画は、二人の対立構図を、映像面で、暗くて見にくい画面、不穏な雰囲気で表しているのだと俺は感じ、それはそれでうまいと思う。しかし、そもそも俺は(原作に共感したので)対立構図で観ていない。なので、はまらないのは当たり前かもしれない。やはり自分の失敗だろう。
船に乗れた人、乗れなかった人の対比。乗れなかった人を描くための、天音の島の長い描写。フミさんとリヒトの長い描写。フミさんの存在意義はなんだったのだろう。なんか悪い意味での日本映画的なものを感じた。
この技術の破綻をクローズアップする終盤。やはり自分の感じた原作の雰囲気とだいぶ違う。グロテスクとか倒錯といった言葉まで自分の頭の中には浮かんできた。言いすぎだけど、浮かんだんだからしょうがない。そう、この映画では、描かれている技術に対する「(生理的な)否定であり拒否」 が見事に表現されていることが、俺にはハマらなかった根底だと思う。
原作は、この技術で拓けた世界においても人間は自由意思で「選択」するという人間の奥深さを描いていたと、自分は感じたので。
ラストの銀塩写真と言い、ちょっと 「古いもの、従来の考え方へのノスタルジー」 が色濃く漂いすぎて、観念的すぎると思った自分でした。
原作にあるとおり「(終わりのない)円ではなく、(初めと終わりのある)円弧」 というのが、タイトルの意味。だが、それは決して 「円より円弧の方がよい」 という意味ではなく、円がありえる世界でも円弧を選ぶ人もいて、そしてその価値もたしかにある、という意味だと、俺は今でも思っている。そしてこの話は、人類初めて "円" を歩み始めた主人公、そして途中で "円弧"を選び直した主人公の話なのだと思います、
いやあ、芳根さんを観に行くだけのつもりだったのだが、事前に読んだ原作がとても面白かったので、つい、熱くなってしまいました。お恥ずかしい。そして、芳根さん、ごめんね。演技はとても上手でした。その点は堪能させてもらいました。さすが芳根さん。「わさび」以来のファンです。
50歳以降、135歳の手前までモノクロという工夫も、"この映画が伝えたかったこと" とはちゃんと対応していて、上手だと思います。
コメントありがとうございました。
私も原作通りに映画を撮る必要ないと思ってます。
この作品で残念なのは、原作をベースに伝えたいことが何か、そこがぼんやりしてるところですね。
とか言って、もうかなり記憶が薄れちゃってますが(笑)
ケン・リュウは良い作家ですね。
テッド・チャンと同じ中国系で、彼をリスペクトしてるようです。
CBさんのコメント読ませてもらって、原作読まないとって強く思いましたねえっ!
原作と映画が違うってなるとますます読みたくなるし。最近なにかとバタバタして読書がなかなか捗らないのですが、必ずいつか読みます👍
感じ方は人それぞれですから、観る前からご心配されませぬよう。逆に観る前に余計な心配させてしまった点は、大変失礼しました。このレビューのことは忘れて、是非フラットな気持ちでご覧くださいませ。