「長編映画にする意味がないなら無理しなくても」Arc アーク Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
長編映画にする意味がないなら無理しなくても
序盤が面白くないの。
2シーン目ぐらいで主人公が海辺にいて、少しザラツイた感じの映像で、カメラも少し揺れるのね。「主人公の心象表現なんだな」と思うんだけど、陳腐な感じがして「この映画つまらなそうだな」と思っちゃうの。
それから退廃的な盛り場みたいなところで、「どうして退廃的な盛り場では前衛的なダンスが行われるんだろう」っていうステレオタイプがくるのね。寺山修司の頃の演劇っぽい。
そこで芳根京子が才能を発揮して寺島しのぶに認められるんだけど「え、それで認められんの?」っていう良く解らないダンス。
それでボディ=ワークス社に入ってプラスティネーションやることになるんだけど、主人公が死体に接する様子とかなんか訳分からない描写が入ってくるのね。
あと建物も服装も1960-70年代で統一してるんだけど意味あんのかな。香川県が協力だから、ロケ地が香川県庁舎なんだよね。前の東京五輪のころ活躍した丹下健三建築。この一点で、前衛的なダンスも含めて、時代感を1960-70年代にした気もするんだけど、効果ない気がしたな。
それで寺島しのぶが死体にポーズをつけると『天才だ!』って感じになってるんだけど、ただ下むいてた顔を上に向けて、手をさしのばしただけだからね。無理あるよ。
そのうち寺島しのぶが死んで、物語が次のフェーズに進むんだけど、そこまでが面白くないのね。それで映画に対する興味が完全に消えちゃうの。「早く終わらないかな、この映画」って感じで義務感で観ちゃうのね。寺島しのぶパートは回想形式でも良かったのに。
しかも、そこまでして描いた寺島しのぶパートが後半に効くかというと、ほぼ効かなくて、なんなら寺島しのぶパートなくて映画は成立するの。なくした方がいいよ、絶対。尺の問題あるだろうけど。
でも、寺島しのぶに出演してもらって、そのパートを全カットするって無理だから、編集段階で気付いてもできなかったろうな。
その後は「不老不死になったら人間はどうなるか?」っていうテーマで、だいたい想定の範囲内で話は終わり。
プラスティネーションで死体を永久保存にすることによる永遠と、不老不死を手にしたことによる永遠でなんか対比があるんだろうと思ったら、特になかったの。
50頁程度の短編作品を2時間の映画にするっていう大変さに挑んだ石川慶監督に敬意は払うし、時系列いじらずに順番に語る構成にしたのもある意味すごいと思ったな。
でも、そういうの抜いて作品として観ると、序盤のもたつきで後半が活きなかったかな。