「日本人の心に響く王道的作品」とんび R41さんの映画レビュー(感想・評価)
日本人の心に響く王道的作品
下手でも精いっぱい生きているヤスは、頑固おやじの象徴。
友人も息子でさえも手に負えない。
冒頭からのナレーションに少しクエスチョンマークが点るが、後半でその意味がわかる。
結婚して、子供ができて、いろんな出来事があって…
その一瞬一瞬はハプニングだったかもしれないが、子が親になり、そして爺になり、同じ場所で立場が変わっても似たような光景を目にするとき、その同じ空間に当時の出来事がそのままあるようで、今はもういない妻の姿が、ヤスの目の奥から呼び戻されるように折り重なってゆく。
この何事もない日常。
自分と妻と息子が、いる。この日常の幸せ。かけがえのない一瞬。永遠に失われることのない思い出。
特に当時の情勢から、どうしようもない家庭の事情なるものがあった時代。
飲み屋のたえ子の娘が、皆の反対を振り切ってまで母に会いに来た。結婚の報告をするためだ。自分にそんな資格はないと考えるたえ子。遠回しに娘に「忘れた」とうそぶく。
しかし出された料理は初めて食べるおふくろの味。しかも婚礼仕様。
自分ではうまく処理できないことはたくさんある。だから近所みんなで悩み、考え、手伝う。古き良き時代の日本の風景が作品に描かれている。
ヤスも実父に会うことができた。初めて見た父。いつか自分を責め、生まれてこなかった方がよかったと言って住職から説教を受けた冬の海。抱きしめていたアキラ。そして父の手を握り「ありがとう」を言うことができた幸せ。
頑固おやじは息子の上京が寂しくてたまらない。親父の態度に息子も照雲もなすすべがない。
結婚の話をしに来た由美に、元の旦那の両親に孫をあわせているのかと聞く。
「離婚しても、年寄りにとっては孫は孫」 思いがけない言葉だった。これはヤスがこれまでの経験で得たものだろう。訳アリ娘の関係者の構図から、この結婚は正しいのかなどという考えが浮かんでいたのだろう。
そして令和元年、ヤスの葬儀。
アキラの視点から父ヤスを描いている作品。
この作品は「そして父になる」の昭和バージョンだ。テーマは「親子とは」だろうか。
捨てられようが捨てようが、血はつながっていようがいまいが、初婚だろうがバツイチのこぶつきだろうが… 自分だけでは抱えられないことも、みんなが手助けしてくれる。
心から泣き、心から応援してくれる。
多くを語る必要はない作品。
私も、他人の幸せを心から喜べるくらい、私自身が幸せでいたいと思った。