「親とんびが鷹になるまで、子とんびが鷹になるまで」とんび movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
親とんびが鷹になるまで、子とんびが鷹になるまで
昔小説を読んだ時に、大泣きした作品。
映画化されて、北村匠海が演じるなんて必ず見なければと思い、子供と見た。
母を亡くし母方に引き取られ養子となり、父親は身を引いて新たな家庭を築いた環境で育ったヤス。
優しい愛妻とのやっと手にした家庭に息子アキラが産まれて、喧嘩っ早いヤスに親の自覚が芽生えていく。
ところが、ヤスの仕事場の荷捌き場で荷崩れし、妻が息子アキラを守って他界。
父親像のわからないヤスにとって、男手ひとつでアキラを育てるのは大変だが、ヤスの姉のような小料理屋の女将や町の大人達に支えられて、不器用だが心に愛情いっぱい、アキラをどうにか育てていく。
アキラにはその不器用さゆえ、うまく伝わらずすれ違う事も沢山あったが、アキラは沢山の大人から愛されて守られて、大切に大切にされて育つ。
そのアキラが広島から東京の大学に合格し、上京。
巣立つ時もヤスはなかなか素直にアキラに伝えられなかったが、アキラもまた、ヤスの想いを汲み取り、東京で一生懸命生きていた。
勤め先の出版社で7つ上のバツイチの子持ち女性由美と、結婚することに。
ヤスのところに報告に来たが、1度目はヤスは困惑。
2度目に来たときは、由美にはお腹にアキラの子供がいた。
アキラを大切に育ててきた町の面々にびしっと一蹴、
「一生懸命生きとるんじゃけえ由美さんは良い子じゃ」
これは仕事で重い荷物を運んで家計を支え、家では大切なアキラを父親と母親の2役をこなして必死に毎日育ててきた、ヤスなら心底わかること。
アキラは、養子として育ったヤスに育てられ、母親がいない寂しさもあるが、その穴を沢山の人達の温かさに支えられて育った。
だから、由美の子に注ぐ愛や人手が足りない時は、自分が温めようとごく自然に考えたはずで、そこにバツイチとかコブ付きとか、そんな気持ちは全くなかったと思う。
一生懸命、大切に育ててきたヤスのひたむきな数十年が、アキラの言動に現れたとき、ヤスの頑張りは報われた。
そして、孫2人と関わり、幸せな老後が訪れる。
豪快で血の気の多いヤスの人生は、親と妻こそ失ったが、後世に命を繋ぐ豊かな物となった。
とんびが鷹を産んだのではなく、親子鷹。
昔はアキラの立場で本を読み、ヤスが不器用がゆえ、親の心子知らずなだけなのだが、アキラが抱く孤独に泣いていた。
親になると、ヤスが背負っていたプレッシャーの重さがよくわかる。
身体も心も元気に育てなければ。
真っ直ぐな優しい子に育てなければ。
母親がいないからと不利益を被ることのないように。
仕事しつつも物理的にアキラに時間と愛情を沢山注ぎたい。
そしてアキラが立派に育て上がるまで見事に果たせたその原動力こそ、大切なアキラがいたから。
そして、ヤスが真剣に育てる中で時に衝突する時、ヤスやアキラに逃げ道を与えてくれた町の人々。
特に和尚とその息子夫婦は、ヤスがアキラに言えなかった、母親の死の本当の理由を上手な形で伝えてくれた。
愛情が深いがゆえ、特に善悪にまつわる事は、
絶対譲らず曲げてはいけなかったり、
突き放してでも厳しく理解させないといけない時というのがある。
そんな事態が起こるタイミングは子供にとっても、
置かれた環境下で寂しい立場や弱い立場に置かれている時だったりする物で、下手すれば親子関係も崩れてますます孤独が深まったり、悪循環に陥る可能性がある。
アキラを叱り殴ったヤスが、自分の事も殴り、
「痛いなぁ。小さい頃の優しいアキラのままにできなかったのは俺の育て方が悪かったのか。」と嘆く場面は、親という立場の強さを利用しないヤスの一本筋の通った人間性が現れている。
大事なところはブレずに、保身をしない素晴らしい親。
アキラを育てながら、帰る場所がある安心感の大切さ、親と子それぞれの温かい逃げ場所がある必要性、血の繋がりがあってもなくても、親の手が回らないところに優しく力添えしてくれる存在はいくらあっても良いことをこれでもかと経験してきたヤスだから、
アキラ夫婦が一緒に住まないか考えてくれても、断る。
東京に送り出す時も、実は誰よりアキラの希望実現を祈っていたが、里心が付かないよう突き放して送り出した。
そういうヤスに育てられ、アキラは物分かりが良い一面や、甘えたい気持ちを堪える一面があり、底抜けに明るくはないし、ヤスのように豪快でもないのだが、本心がどこにあるのかわかりにくい中からでも不器用な愛情を感じ伝え返す優しさがある。
そのアキラを表現できるのは北村匠海以外いないと思うくらい、ぴったりとはまっていた。
時折織り交ぜてくるテルマエロマエな阿部寛と、
薬師丸ひろ子、安田顕の存在感もものすごい。
これでこそ邦画だと感じる、日本人の深い優しさや人情深さの全てが詰まっているようなこの作品。
主題歌は大好きなゆずの、風伸子という楽曲。
もう、100%、余韻どっぷり間違いなしな、悪意ゼロの名作。
全ての登場人物の発言も気持ちもよくわかる大人になって、政治がどれだけ育児世代に辛いものになっても、子供達が見える関わる範囲を優しさで満たせる大人でありたいなと強く感じた。
町ぐるみの大きな家族の構成員でありたい。