「アレサ・フランクリンならではの「アメイジング・グレイス」」アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
アレサ・フランクリンならではの「アメイジング・グレイス」
黒人の黒人による黒人のためのミサコンサートだと思った。なにせ場所がロサンゼルスのバプティスト教会だ。参加者の誰もが敬虔なクリスチャンで、主を崇め、神を讃美する歌を聞く会である。しかしその客席にはローリング・ストーンズのミック・ジャガーの顔が見えた。この場に白人が普通に座っていて、それを周囲が普通に受け入れていることに衝撃を受けたのは当方だけではないと思う。1972年。キング牧師が暗殺された4年後。アレサ・フランクリン29歳、ミック・ジャガー28歳のときのコンサートである。
牧師であり歌手でありピアニストでもあるジェームズ・クリーヴランドがMCをするのだが、普通のコンサートみたいにドラムスがスティックを叩いてワンツー、ワンツースリーフォーと言って歌がはじまるとは限らない。盛り上がったアレサが叫ぶように歌い始めると、周囲がそれに合わせてコーラスを歌い、拍手をし、そして踊りだす。なんというソウルフルなコンサートだと、思わずこちらもリズムに合わせて体を揺すりそうになってしまった。
当方はクリスチャンではないのでミサのことはよくわからないが、黒人が通う教会で歌われるゴスペルについては通り一遍のことは知っている。「アメイジング・グレイス」は有名だが、ゴスペルという感じではない。ゴスペルはもっと聖書に沿っていて、聖書の言葉そのものが出てくることも多い。
本作品で歌われた歌は、ほとんどがゴスペルであった。死んで4日も経ってからイエスによって墓から蘇ったラザロとその姉妹マルタとマリヤの話(「ヨハネによる福音書」第11章)がそのまま出てくる部分は当方にも解った。しかし、ゴスペルだから当然とはいえ、神と主を讃美する歌を延々と聞いていると辟易してくる。クリスチャンの方々には申し訳ないが、無宗教の人間にはゴスペルの歌詞はそう聞こえるのだ。
ただ「アメイジング・グレイス」をこんなふうに歌ったのは初めて聞いた。数しれぬ歌手がこの歌を歌っているが、譜面に沿ったきれいな歌い方しか聞いたことがない。ビブラートを効かせながら勝手に伸ばしたり同じ歌詞を繰り返したりという自由自在な歌い方が許されるのは、アレサ・フランクリンだからなのだろう。この一曲を聞くだけでも、本作品を鑑賞する価値は十分にあるとは思う。