「ただただ陶酔感が湧き上がる幻のライブ映像」アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ただただ陶酔感が湧き上がる幻のライブ映像
正直言ってこのドキュメンタリー映画を舐めていた。本作がいざ始まればおそらく誰もが、1972年、夜な夜なLAの教会に響きわたった歌姫の至福のメロディに呑み込まれる。専門の音楽的知識など不要。南部の教会で老若男女が陶酔感たっぷりに身体を揺らすように、ここでもただ音楽を肌で感じ、身体と心を委ねればいいだけの話なのだ。観客を入れて行われた二日間の収録はのちにレコード盤となり大ヒットを遂げた。と同時に、ワーナーが製作するはずだったシドニー・ポラック監督による映像版は技術トラブルによる映像と音が同期せず、ずっと未完成のままお蔵入りに。それが'18年、ついに日の目を見ることになった。この意味は大きい。観客の服装、表情、歓声、諸手を挙げて祝福を送る姿。額いっぱいに汗を浮かべ魂の響きを紡ぐ歌姫。その背後にポラック監督がちょいちょい見切れているのが感慨深い。この名匠もまた天国で映画の完成を祝福しているはずだ。
コメントする