「身の周りで十分にあり得る怖さ」アオラレ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
身の周りで十分にあり得る怖さ
ラッセル・クロウのぶっ飛んだサイコっぷりが怖い。どこにでも居そうな風采の上がらない中年男が、怒りに身を持ち崩し堕ちていくさまをこれでもかと演じきっている。
低予算のインディペンデント映画っぽいけど、余計な混じりっ気のないシンプルなストーリーで、あっという間にラストまで駆け抜ける。コロナ禍に公開されたアンラッキーな作品で、映画館にかかったのかどうかも微妙なラインの作品でしょう。
基本的には、悪くない出来上がりだと思うんだけど、日本語タイトルだけはもう少しなんとかならなかったんでしょうか。もちろん「あおり運転のエキサイトした映画なんだろうな」って、想像がつくし、そこに興味が出て「最初の10分でつまらなかったら止めよう」くらいの軽い気持ちで見たので、フックとしての役割は果たしているんだけど、もっとライトなコメディを想像していました。
スピルバーグの名作『激突!』を現代風に作り変えたらこうなりそうだとも思った。スマホやガラケーを上手に生かした演出や、学校とか警察がコミュニティに十分貢献できていない現状や、女性の社会進出にどれだけ障害があるのか、サイコ野郎が犯行に手を染める背景など、ていねいに描いてあるので、説得力は群を抜いている。
スーパーな悪役や超人的なヒーローの活躍もないし、どこにでもいる母親が必死になって逃げまどうさまは、応援せずにはいられない。
そして最後には少しだけ…ほんの少しだけ兆しが。ああ、でも見てない人のためにこれ以上は書けません。結末を知ってしまったら、この手の映画って本当に見る気が失せるでしょうから。
でも、もしこの映画の続編が製作されることになったら、見ちゃうだろうな。どうやって繋げるのか無理筋だけど。『ドント・ブリーズ』なんか、ありえない発想の転換で続編が出来上がったし。すべては映画の評価次第ですね。
2022.2.16