劇場公開日 2021年4月2日

「分からないことだらけ」僕が跳びはねる理由 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5分からないことだらけ

2021年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自閉症の“問題”は世間の関心が非常に高いようで、東田直樹氏の本は図書館の予約順番待ちで借りられず、予習できないまま鑑賞した。
何はともあれ、この世界について教えてくれたことは素晴らしい。
“問題”視すること自体が、問題でありうることを教えられたのだから。
「すぐに言葉が出てこない」という点では、自分も遅くて苦労している方なので、“人ごと”ではないのだということも分かった。

ただ、残念作である。
中途半端な形であっちこっち話に話が飛んだかと思うと、また戻ってくるという、ドキュメンタリーの典型的な悪いパターンに陥っている。話が薄いのだ。
内容的にも、東田氏の本の断片と、自閉症の子供の親のインタビューを中心に構成されているので、基礎知識に欠ける自分には全体像が分からない。

「自閉症スペクトラム」と呼ばれる中で、本作はどの部分を対象としているのか?
「分かる人に分かれば良い」ということなのか?
出てきた子供たちが、東田氏の本の内容から遠い場合、そもそも何のドキュメンタリーなのかということにもなるだろう。

テーマを深めることよりは、世界中を回ることに尺を割いている。
欧米、インド、アフリカ、東アジア。地域バランスをみれば、意図は明らかだ。
日本人の著作から出発したので、“世界中の自閉症の人を映す”ことの方が、英国人監督にとって優先事項であるようだ。
しかし、人種や国に、何の関係があるのだろうか?
例えば、“途上国ではより偏見がひどい”ことを示すほど、各地域の事情が詳細に描かれるわけではない。

「文字盤」を使って、じっくり時間をかけてコミュニケーションをとる方法が有効であることは分かった。
言語理解そのものに、問題のある人ばかりではないようだ。
だとすれば、自閉症の人が自身で直接表現したもの、例えば東田氏のような“文章”が、なぜもっと引用されないのだろうか。少なくとも「高機能自閉症」の人なら書けるはずである。
本物の専門家なら、この映画を観て参考になるとは思えない。

「角川シネマ有楽町」のアンケートで、「もう一度観たいと思うか」という項目があったが、自分の答えは「いいえ」である。
むしろこの映画を第一歩として、東田氏の本の方を早く読んで、本作の意味を確認したい。

Imperator