劇場公開日 2021年9月17日

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「フィルム・ノワールを連想するような画面だが、意外に情感がこもった一作。」レミニセンス yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5フィルム・ノワールを連想するような画面だが、意外に情感がこもった一作。

2021年9月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編の「記憶に潜り込む」描写や、青を基調としたポスターを観て、「クリストファー・ノーランの新作かー。でもなんか『インセプション』っぽいな」と思っていたら、ノーラン兄弟の弟の方、ジョナサン・ノーランが手がけた作品だったんですね(監督はリサ・ジョイ)。記憶を題材とした作品だし、ノーラン作品で脚本を手がけていたジョナサン・ノーランということで、非常に複雑な物語構造を覚悟していたんですが、実際はそこまでややこしい筋ではありませんでした(現実と記憶の区別が曖昧なところが作劇上のトリックになってはいるけど)。なぜかというと、本作で登場する記憶潜入技術は、再生はできるけど操作や改変はできないという設定となっているためです。このあたり、もしクリストファー・ノーランが監督していたら、絶対いじってくるだろうなー。

なんで本人の記憶を三人称視点で再生できるのか、といった疑問も出そうですが、これはゲーム『サイバーパンク2077』に登場する「ブレインダンス」という技法と同様、本人の見聞きした視覚/音声情報に従って、空間を再構成し直す、という技術だからです。そのため、本人が注意を向けていた対象、空間については緻密に再現可能ですが、あまり意識を向けていなかった部分の再生品質は劣る、ということになります。こうした理屈については、『サイバーパンク』では上手く説明されていましたが、本作ではあまり詳細な説明がなかったので、確かにちょっと分かりにくいかも知れないですね。

この、「取り出すことはできるけど操作できない記憶」という仕組みが結末の仕掛けに繋がっています。作品中盤までは、フィルム・ノワールっぽい硬質な映像とちょっと感情的になりやすい登場人物の言動の齟齬が気になり、一体どういった心構えで作品を鑑賞したら良いのか分からなかったんだけど、このクライマックスでは両者の要素が上手く噛み合っていたと感じました。

舞台となる都市を俯瞰で捉えた映像、水没しつつある街並みの描写は非常に素晴らしいんだけど、物語との繋がりがあまり感じられなかったところは残念でした。もっと舞台装置としても観たかったなー。

yui