劇場公開日 2021年7月9日

「詳細不明なノンストップ・アクション」走れロム Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0詳細不明なノンストップ・アクション

2021年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

検閲が入って再編集されたこともあるためか、いろんなことがよく分からない映画だった。

作品の背景として、ロムが「生き別れとなった両親を捜」していることや、アパートが中国系資本の地上げ屋によって取り壊されそうになっていること(なぜか、この問題がベトナム政府による検閲の対象となっているらしい)は分かる。
しかし、それらはストーリー展開と密接に関係しているとは言いがたく、話を分かりづらくしているだけのように思える。
ロムは必死に金を稼いでいるだけで、「住民たちを救い」というモチベーションなど、持っているようには全く見えない。

貧乏人ほど一攫千金を夢見て熱中する「デー」という、国営くじの下2桁を当てる違法くじは、「胴元 - 賭け屋 - 走り屋 - 賭ける人々」という4層構造で成り立っているという。
違法であるがゆえに、人々は自分で直接賭けることができないようだ。
さしずめ、ロムと同業ライバルのフックは“走り屋”、川の中州に住んでいるギーおばさんは“賭け屋”という、胴元とのあいだの“仲介屋”になるのだろうか?

ところが、この“走り屋”や“賭け屋”が、実際のところ、何をやっているのか分からないのである。
アパートを走り回って、何かの紙をばらまく。しかし、それが“くじの結果が書かれた紙”なのか、何のためにばらまいているのかなど、さっぱり分からない。国営くじの結果はラジオで分かるからである。
そもそも、なぜ走っているのだろうか?

ロムは2桁の当たり数字を予想して集金しているようだが、バーばあさんやカックおじさんなど、賭ける人々がなぜ自分で予想しないのだろうか?
誰が予想しても、当たる確率が百分の一であることは、馬鹿でも分かりそうなものだ。
占いや予想屋にすがろうとする“頑迷さ”に驚かされる。賭けの常習者とは、こういうものなのか。

ロムとフックの関係も、つかず離れずで、全く理解不能だ。
殴り合いの決闘を演じたり、金を横取りしたり、縄で拘束したかと思うと、一方で、同業者として共存しているのである。

なお、ロムの幼い時代が、フラッシュバックで出てくるのが不思議だったが、ロム役の少年は監督の実弟で、「16:30」という学生時代の短編映画が挿入されているようだ。

この映画は、走る、争うといったアクションが、ほぼノンストップで続く。そして、アクションが止んで映画が終わる、という感じだ。
決して残虐なバイオレンス作品ではないが、心温まるエピソードなど無きに等しく、破壊こそあれ生産的なことなど見当たらない。
検閲があったとはいえ、もともと、話に“つじつま”を合わせようとは考えているようには見えない。
結局のところ、この映画にあるのは、貪欲さや愚かさ、暴力や裏切り、盗みや恐喝といった下層階級のもつエネルギー、それだけだ。

観客は、訳の分からないまま、ポカーンと口を開けてエンドロールを迎えることになる。
ベトナム本国で「驚くべきヒットを記録」したらしいが、日本とベトナムでは事情が異なるだろう。
この種の映画が今まで無かったのだろうか? 一体、どこがベトナム人の琴線に触れたのか、自分は理解できなかった。

Imperator