「原作を何十回と読んでいるからこそ」THE FIRST SLAM DUNK 森林熊さんの映画レビュー(感想・評価)
原作を何十回と読んでいるからこそ
なんでこんなに大ヒットしたのか謎でしかないと感じた。面白くなかったという訳ではない。ただ、内容的にスラムダンクなんて知らない、って人向けでは無いはずなのだ。そもそも原作の最終戦という時点で当たり前ではあるのだが。ところが原作なんて読んだことないけど、って世代に何故かウケているようなのだ。昔流行った漫画原作だからと、とりあえず観に行って、原作気になったという感じで漫画に入り、SNSや口コミで広めてみたいな感じらしい。確かにいきなり31巻もある漫画から入るよりは、映画の方がとっつきやすくはある。それにしたって異例のヒットぶりだが。
かと言って原作愛読者向けという訳ではない。何故ならセリフを覚えるくらい読み込んでいる自分からすると、なんでそのセリフやシーンを端折ってるの?というのが余りにも多過ぎるのだ。2時間しか無いから仕方ないと言えばそれまでだが、原作にない宮城の回想シーンを省けば余裕で入る。自分みたいなタイプは、セリフが飛ばされる度に気になってしまった。原作読んだことあるよ、あんま覚えてないけど。アニメも全然観たことないよ、って人向けだと自分は感じた。
自分は声優総入れ替えの時点で映画館で観る気が無くなった。しかし超ロングランで興行収入157億円なんてのを観て、そんなに面白かったのか?とこの度視聴することにしたのだが、声は途中まではそこまで違和感は無かった。しかし、花道と安西先生が喋り出すと違和感しか無い。旧アニメの印象が強過ぎてこいつら誰?状態になる。そして元々声がついていなかったので本来は違和感など無いはずなのだが、丸ゴリこと河田の声もイメージと全然違うと思ってしまった。流川も正直違うなという感じがしたが、それ以外はそこまで気にならなかったのが正直なところだ。まぁ花道が違い過ぎる時点で☆-1くらいの衝撃だったが。
回想が終わり試合が始まるが、未読の人なんかは序盤でミッチーが3Pを連続で入れるシーンなんかなんとも思わないだろう。そもそも3Pの凄さが分かっていないと思う。しかし原作でここはチームメイト全員がすげーなと感心し、絶好調と読んでいた堂本監督も警戒を更に強め、ディフェンスのスペシャリストである一之倉は更に三井へのプレッシャーを掛けて行こうと決意する重要なシーンなのだ。
「40分付き合ってやるよ、この野郎」なんて原作に無いセリフが飛び出したかと思ったら、次の瞬間なんと前半が終わっている。まだ劇中では14分しか経っていないのにだ。当然沢北やポールが一時ベンチに下がるシーンはなく、美紀男と花道のマッチアップも丸々省略されてしまう。宮城が主人公とはいえ、あんまりなカットである。原作でも美紀男を交代させた時点で9分くらい前半が残っていて、そこから後半に一気に飛ぶのだが、それにしたってこれは酷い。
そして回想が挟まる。死亡フラグを立てられたソータは案の定亡くなっている。後半が始まったと思いきや、怒涛のゾーンプレスになるのだが、またも回想が入る。神奈川に来たと思われるリョータの前に何故か中学生のミッチーが出て来るのだ。しかもヘアスタイルがグレる前のでは無いという謎改変。あの髪型だった三井がグレてロン毛になるからインパクトがあるのだが。
河田に赤木がやられるシーンも原作では重要なのだ。湘北の大黒柱であり、これまで数多の強敵と渡り合い、ねじ伏せて来たゴリが全く通用しない。河田雅史は住む世界が違うとまで赤木に言わしめるのだ。全国大会に向けて会得した新技スピンムーブですら、豊玉戦で出したことから研究されており、ブロックされてしまう。このブロックは湘北全員にショックを与える。そして三井にボディブローのように効いているというセリフが入る。これは一之倉と三井のやり取りがカットされているのだから、原作ファン以外は全く分からないだろう。このように別にそれは要らなくね?というセリフは入っていたりする。まぁ一応三井が疲れてるんだな~という感じは伝わるだろうが。
そして謎の1年前の湘北の回想シーンが入る。何故赤木が10番なのだろうか?原作では赤木が10番は1年生の時で、2年生の時の赤木のユニフォームは8番なのだ。そもそもインターハイの相手は陵南だったはずだ。ここでも謎改変である。正直しなくていいし、する意味が分からない変更だ。
追い上げのためにオフェンスリバウンドが4点の価値があると丁寧に説明するが、未読者ではまずリバウンドって何?という人が多いだろう。原作を読んでいれば、序盤からひたすらスクリーンアウトの重要性、リバウンドの重要性、リバウンドを制する者は試合を制す、リバウンド王桜木というものが刷り込まれているのだが、未読者からすると、とりあえずこれからやることで逆転出来る程度の認識だろう。それ故に無駄に丁寧に説明する意味が分からなかった。
魚住が登場しない関係で、よく分からん妄想シーンが入り、赤木は復活する。そこで「もう俺の願いは叶えられている」という謎セリフが登場する。おそらく「全国制覇の夢を一緒に追える仲間とバスケをする」という類の話なのだと思うのだが、全国制覇は譲れんのだと原作でも語っている通り、願いは叶えられていると言われても違和感しか無い。とはいえ、一応最後のチャージドタイムアウトのシーンでそれらしき涙を流すシーンはある。お陰でそのシーンはカットされているのだが。
復活した赤木のスクリーンから三井の3P。二人が拳を合わせるシーンを見たメガネ君が「2年間も待たせやがって」と感無量になるシーンが入るのだ。そして高頭監督による信頼という説明が入り、海南のメンバーがギョッとする流れは鮮やかなのだが、当然全カットである。
海南は背景になっており、陵南は昨年のインターハイの試合からも省かれ欠片も登場しない。お陰で仙道が流川と1on1で才能を生かしきれていないというシーンも無いし、安西先生に言われた日本一の高校生を目指すため、日本一の高校生である沢北を抜くためにパスを選択するという部分が一切無い。未読者は流川のパスの意味なんて分かる訳も無いし、おそらく一読した読者でもそこまで覚えて無かったのではなかろうか。
流川から赤木へのパスを見てベンチから盛り上がるより先に安西先生が大きなガッツポーズをする。これはバスケットカウントワンスローになったからだけではない。今までの流川になかった1on1からのパスを選ぶという成長を見て咄嗟に出たものなのだ。いつもは置物のようにしている安西先生までもが闘志を燃やしていることに、木暮やヤスだけでなく読者も驚愕し、興奮する重要なシーンである。
ここまで改変が多かったが、その中でも決定的なのが、「安西先生、バスケがしたいです」が無かったことになっているのではないかとすら思える改変である。ずっとバスケから離れていて、バスケ部なんかどうでもいい、バスケ部を潰すと体育館へ乗り込んで来る三井がいいのだ。バスケ部の試合を見に行くとか全然不良時代の三井らしくない。正直未読者が見たら、なんかいきなり心変わりしてロン毛カットしてバスケ部入って来たの?という感じしかしないだろう。一応膝を気にしたり、安西先生とニアミスするシーンはあるのだが、本当に唐突なのだ。かと思えばこの後、かつて混乱を、というセリフは残っている。一体どういう扱いになっているのか意味不明だ。
深津は一年生の頃から山王工業のレギュラーの座を獲得していたということになったのだが、これも正直残念な変更。常勝山王の中で一年でレギュラーになったのは沢北だけって方が良かったと思う。まぁ確かに原作では牧を抑えられるディフェンス力を見せたりしているのだが、宮城との身長差でのミスマッチの割には得点シーンが少ない。深津を中心に攻めるはずが、得点シーンは作中でわずか5点である。そして前半カットされた影響で、唐突に現れる美紀男。もう完全にやられ役でしかない。未読者からはなんかいきなり丸々したデカイ奴が出て来たとしか思えないだろう。
花道のプレイにより湘北の応援を始める観客たち。ここも原作ではこれまで山王一色だった応援が、という感じだったのに、それが全然伝わって来ない。そして花道の押し込みダンク後のシーン。ノーカウントだったが会場全体が驚愕するシーンである。ただ未読者からすると、意味の無いことして怪我を悪化させて引っ込んだだけにしか見えないだろう。回想シーンにバスケットが好きかのシーンがあったのでまさかカットされるとは思わなかったが、「大好きです。今度は嘘じゃないっす」も丸々カットである。
残り49秒、起死回生の三井の3Pバスケットカウントワンスロー。よくこのプレイのせいで松本が戦犯扱いされるのだが、それは結果しか見ていないと言わざるを得ない。まぁ三井の言葉を真に受けての「奴は打てねえ!!」は満面の笑みと合わさってピエロそのものではあるのだが。もう一つ桜木が引っ込んでいる間、木暮とのマッチアップをしていたのだが、他校でエースを張れる実力と評される割にはオフェンスも微妙である。というか前半は美紀男が引っ込んだ後から出場していたのだろうか。
戦犯と言えば堂本監督で間違いない。まぁ大体の人はこの意見だし、自分もこれを推す。少なくとも後半三井が3Pを入れまくった時点で、松本を下げて一之倉を再度投入しても良かったはず。そこで何故河田を桜木、美紀男を赤木なのか。さすがに赤木を舐め過ぎだし、試合前からあれだけ警戒していた三井への対応としては滅茶苦茶だ。あいつらに油断や慢心は無いというセリフもあるが、でも自分には合ったのだ。歴代最強のメンバーが負けるはずがないという油断と慢心が。
そして途中堂本監督はメンタル的にかなり押されている。湘北はいつになったら諦めるんだ?と。相手が折れるのを待っている時点で弱気になってしまっている。そして極めつけ、桜木は限界だと判断してのチャージドタイムアウトのキャンセル。流れを何度となく変えているキーマンである桜木は怪我をしていこそすれ、コート外にいて貰った方がいいはずなのに、ここも弱気に流れてしまっている。事実上5対4の方が有利だという、動かない選択肢だ。
桜木から流川、流川から桜木という普段犬猿の仲の二人が見せたホットライン。これを未視聴者が理解するのは不可能だろう。左手は添えるだけ、ここでスラムダンクではなく合宿シュート!となるのだが、なんとセリフすら無かった。口パクである。そして審判が得点を宣言するシーンが入るのだが、本当に小さく映っていた。そこはシュートが間に合ったことを印象付ける本当にいいシーンなのだ。なんでそれを小さくする。
沢北が人目も憚らずに泣くシーンがあるのだが、沢北ってそういうキャラというイメージがあんまりない。まぁ泣き虫な設定は上級生に殴られたシーンであったが。そしてアメリカでの沢北VS宮城で終わる。いや、宮城ってアメリカでもやれるような能力では無いと思うのだが。フリースローは苦手。ミドルレンジのジャンプシュートも深津は打たせていいとすら判断するレベル。しかも山王戦で言えば、フリースローの2点しか得点シーンが無いのだ。自然に考えれば流川なのだが、この映画では正直流川は完全に脇役である。スタメン全員に見せ場があるのが、スラムダンクのいいところのはずなのだが。
終わってみれば決してつまらなかった訳ではない。ただ、あらゆる点を加味しても連載終わった直後に旧アニメを再開してくれていたら、絶対にこれより面白かっただろうということが断言出来てしまう。原作一読程度の層には懐かしいと同時に、もう一回読んでみようかという気にさせるだけのクオリティはあると思う。原作未読の層も上述した通り、原作に引き込めるだけの力があるのだろう。宮城を主人公としたことで、全員が知らない設定が出て来るというのが良いところなのだろうが、何十回と読んだ自分みたいな愛読者からするとカットされたシーン、演出に物足りなさを感じてしまった。スラムダンクは桜木花道という主人公が最初から最後まで成長する物語なのだ。文字数ギリギリなのでもうちょっと書きたいが、ここまでにする。
このお方の長文のレビューはまさに自分が沢山言いたかったことを代弁してくれているなと思いコメントさせていただきます。その為それぞれの場面で思うことは割愛します。
今回の映画で宮城を主人公としてその背景を知れたこと(漫画では湘北のスタメンで一番エピソードが薄い印象だったので)、映像として新たにスラムダンクを観れたのは良かったです。
がしかし、それと引き換えに山王戦がとても薄っぺらい内容になってしまったなと思いました。やはり2時間という時間ではとても表現できないのか?とも思いました。(それでももっとバランスよくまとめられたんじゃないか…)
自分は原作を読みアニメを観て育った世代で、それがきっかけでバスケを始めたような人間でしたので、原作厨ではありませんが今回の映画内容はなんだかなぁ…と思ってしまいました。
評判や情報を一切入れないで2024/3/15に自宅でDVDを見たこともあり終始突っ込んでいました…。
「ここは盛り上がるところでしょ?」「あのシーンは?」「えっ、あのセリフは?」みたいな感じで…。
見終えた後に自分が感じたこの感覚をみんな感じているんだろうな…と思い色んな評判を見てきましたが絶賛されている方が多いことに驚いてしまいました。CGがうんたらかんたら、音楽がうんたらかんたら、声がうんたらかんたら、あの頃の感動がうんたらかんたらありましたが、自分は1番大好きな山王戦が宮城のエピソードと引き換えにここまで薄っぺらくされていることに悲しくなりました。山王戦は赤城、三井、宮城、流川、桜木みんなにドラマがあり乗り越えて勝てた最高の試合だったはずなのに…。山王のメンバーにももっとキャラの濃さがあったはずなのに…。
DVDを観て評判を一通り見たあとに、内容の確認の為にYouTubeでスラムダンクの紙芝居的な映像で山王戦を観てみたけど…、久々に観て感情移入して感動したのもあるけど、こんなにも素晴らしい山王戦が映画で汚されたとも思って……泣いた……。以上。