「【危機の創造と産軍複合体】」シャドー・ディール 武器ビジネスの闇 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【危機の創造と産軍複合体】
問題意識として、「敢えて」高スコアを付けます。ドキュメンタリーとしては、あまり出来は良いとは思いません。
産軍複合体とは、「軍需産業」と「軍」、「政府」が形成する「概念的」存在だ。
だが、この概念的な存在は、「危機を創造」し(この場合、でっち上げという方がわかりやすいかもしれない)、軍拡を喧伝し、軍拡を容認させ、紛争国、或いは、潜在的な紛争国に武器を輸出し、多額の利益をあげ、一旦、軍縮などあっても、有事に備えてとか、再び、「危機を創造」して、軍備の拡充、最新鋭化を迫る(マーケティングする)ことを厭わない、アメーバのような明確な組織を持たない組織のようなものだ。
この映画は、第一次大戦の、独ソ軍のクリスマスの一時的休戦を例に挙げ、これを理想的な出来事のように暗示し、様々なインタビューや過去の記録フィルムを繋ぎ合わせて、こうした産軍複合体の危険性を示そうとしたのだと思うが、情に訴えかけるような手法は、この危機の創造に対しては無力なように感じる。
世界の紛争の背景には、貧困が大きな問題であることは少なくないし、全ての人間が動物のような本能で戦っているわけではないからだ。
ブッシュが、チェイニーやラムズフェルド、英元首相のブレアと始めたイラク戦争にも、化学兵器開発といった(でっち上げの)危機の創造があったことは明らかで、本来は、こうした嘘を許容しない、あった場合には、民主的な方法で政権から退場させるような各国民のモラルが重要になる。
しかし、中国やロシアのような独裁国家と向き合う時、また、そこには危機の創造がかま首をもたげる。
皆さんはご存知ないかもしれないが、国際社会は、2014年に国際条約である武器貿易条約(ATT)が発行して、ジェノサイドなど人道に反する戦争犯罪を引き起こしたり、助長することが明らかな場合の武器移転を禁じている。
毎年、その分析評価など行われているが、しかし、こうした規制がありながら、締約国は武器売却を続けている。
アムネスティによると、米国の武器輸出が最も多く、その輸出先は、サウジ、オーストラリア、アラブ首長国連邦が上位三か国になる。
続くロシアは、インド、中国、アルジェリア、
3番目はフランスで、エジプト、インド、サウジ、
4番目はドイツで、韓国、ギリシャ、イスラエル
5番目は中国で、パキスタン、バングラデッシュ、アルジェリア、
6番目はイギリスで、サウジ、オマーン、インドネシア、
7番目はスペインで、オーストラリア、トルコ、サウジアラビア、
8番目はイスラエルで、インド、アゼルバイジャン、ベトナム、
9番目はイタリアで、アラブ首長国連邦、トルコ、アルジェリア、
10番目はオランダで、ヨルダン、インドネシア、アメリカ、
がそれぞれの輸出先上位三か国になる。
以上からも明らかなように、中東への武器輸出が最も多く、詳細なデータでも半分以上を占めると言われている。
ATTが発行した2014年から2018年の5年間の取引額は、その前の5年間から87%増加していた。
映画で取り上げられるように、イギリスも武器輸出大国で、主な輸出先のサウジとオマーン、そして、そのほとんどが戦闘機と言われている。
現在、世界最大の武器輸入国はサウジで、米英が輸出のほとんどを占める。13年から17年の間に、輸入額は225%増加し、トランプ政権が拍車をかけたと考えられる。
武器輸入は、紛争の状態や経済発展が大きくかかわっており、
1950年代は、朝鮮戦争で対立関係にあった、中国と米国が上位2か国となり、3番目はインドシナ紛争の渦中にあったフランスだ。中国の輸入額は群を抜いていた。
1960年代になると、ドイツの輸入量が群を抜く。国際社会への復帰と再軍備の容認、対共産主義防衛の色が非常に強いと考えられる。
70年代になるとイランが突出する。脱イスラム化と世俗主義による近代化政策をアメリカの援助とともに推し進めるなか、武器輸入が増加し、結局弾圧的な政策が78年のイラン革命を引き起こすことになった。70年代からは原油価格の上昇、資源ナショナリズムの台頭などで中東の武器輸入が増加傾向となる
80年代は、イラクとインドが台頭し、日本が3位になる。イラクはイランとの対立先鋭化によるイランイラク戦争の影響、インドは経済成長が緒に就き、パキスタンと継続するカシミール問題などが背景にあると思われる。日本は、対米貿易の急増で米国からの武器輸入を増加せざるを得ない状況になっていた。
90年代にはいると、イランが湾岸戦争を引き起こした余波でトルコとサウジの輸入量が上位を占め、僅差で日本、台湾が追う展開となった。台湾は対米輸出増加で日本と類似した状況だったこともあるが、中国の経済発展や軍備の近代化なども背景にあったと思われる。
2000年代は、経済発展が著しい中国がトップ、インドが2位になる。中国は、経済発展を背景に一気に軍備の近代化を推し進めることになった。インドも同様だ。この年代には、映画でも取り上げられるイラク戦争が起こった。そして、
2010年代は、インドが首位、サウジが2位だ。インドは経済発展が著しかったこともあるが、中国と国境問題も抱え、軍備の近代化が必須だった。サウジは、イラク戦争に続くISの台頭、シリア紛争、イエメン内戦など周辺の紛争への対処が大きな課題になっていた。
2018年までの10年間の武力紛争での死者は、約250万人。2018年一年間では約77000人。
武器の輸出入はやむを得ないという人は多いし、僕自身も完全に否定できるものではない。
しかし、多くの命が奪われていることは事実だ。
軍事独裁政権の権力誇示のための武器利用も多く、映画では南米のチリのケースが取り上げられているが、最近では、ミャンマーのクーデターで民間人に武器が使用されないか懸念されているところだ。また、中国の対ウイグル人のジェノサイド、香港国家安全法の下でも独裁権力誇示も国際社会は目をそらしてはいけないと思う。
2017年の銃に限定した犠牲者は、約59万人で、これについては、中南米とカリブ海諸国が相当な割合を占めていた。
軍備には常に兵器の最新鋭化という強迫観念に付きまとわれている。
開発費は高騰する一方だ。
しかし、最新鋭兵器とはいえ、実際に使用されることは少ない。
こうした兵器は、使用された場合の被害や波及すると考えられる悪影響の甚大さ、反人道的な結果が一定の抑止になって、外交努力がなされるという人はいるし、もし、南シナ海で散発的な小競り合いがあっても、紛争が拡大することにはならないと分析する研究機関もある。
ただ、人道的な問題という観点から考えると、近代兵器より、銃、ロケットランチャーなどによる殺傷の割合は非常に大きく、地雷は禁止される傾向が高まっているものの、前近代兵器の輸出という問題は大きいまま放置されていると言わざるを得ない。
映画では、中東への武器輸出には高級コールガールが必須だなどとうそぶく輩を登場させるより、もっとロジックで、詳細なデータを示す方が、理解されやすいのではないかと考える。