劇場公開日 2021年1月30日

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「壊れる「物語」」シャドー・ディール 武器ビジネスの闇 taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5壊れる「物語」

2021年2月8日
PCから投稿

いろんな意味で私のキャパを越えていた。
先ず、中東の紛争は国内勢力による内戦と大国の利害が絡んで解決が難しくなっている、というのが私の理解であったが、こうした世界認識は単純すぎるようである。軍事産業の絶えざる利益追求が背後にあるらしい。

観る人によっては、どこか陰謀論の様な印象を抱くかもしれない。しかし、通常の陰謀論(者)が、すべての原因をワン・アクターに帰納し、根拠を明確にせず、しかも自分(達)を被害者の立場に置くことが一般であるのに対し、この映画が暴露する〝現実〟は様々なアクターが入り組んで複雑である。その上、自分(達)のイノセンスな自己像が揺らぐようなザワザワ感がつきまとう。

端的に言えば、70年代から2000年代に至るまで、米国がチリやニカラグア、イラクなどで働いてきた侵略行為を知らなかった、知ろうとしなかったという無知の罪、あるいは、米国の同盟国として米国の侵略・犯罪を補助する役割を日本が果たしてきたことに対して無関心であった罪などである。

映画は、レーガンからオバマまで米国大統領が平和よりも戦争を、友よりも敵を求めてきた様子が映されている。そして、その結果中東や南米で罪のない人びとの身体が一瞬で吹き飛ばされる映像も挟み込まれている。

映画の冒頭に、ガレアーノというジャーナリストの「物理学者は人間は原子でできていると言うが、人間は物語からできていると言う人もいる」というつぶやきが挿入されているが、まさにこの映画は、私を作っていた「物語」にひびを入れたと言える。

この映画のレビューを書いている方たちは私も含め今のところ三名に過ぎないが、皆それなりに評価しているにも関わらず、なぜか平均点数が「1・9点」になっている所が妙に怖い。

taro