「DV被害者のお話し」サンドラの小さな家 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
DV被害者のお話し
家を建てるのは、本作の本筋ではない。
違う視点から見ると、すごい作品だ。
主人公・サンドラを追って観ていると、無償で自宅を建てるのに協力してくれたボランティアスタッフに対して、偉そうだわ、高圧的だわ、感情的だわと、非常に観ていてつらくなる。
(事情が分からずに)あんなこと言われたら、私だったら即座に帰るし、縁切るわと思うレベルにひどいことを口にする。
なんで、欧米の映画の登場人物って(物語でもドキュメンタリーなどでも)感情のままに叫んで、人をなじって、後先考えない行動に出るのか? と思わなくもない。
動物的、脊髄反射的。
素直に感情を表現するのが美徳、という風潮もあるものの。
しかし、サンドラは精一杯をすでに通り越して、PTSDによる感情コントロール不能状態に陥っていると考えると、腑に落ちる。
ここまで苦しみ、追い込まれることの恐怖。
そして、サンドラが苦しめば苦しむほど、執着のあまり更なる精神的苦痛を際限なく繰り返す元夫の異常性が浮き彫りになっていく。
また、法的に元夫に子どもと会わせなければならないことが、妻や子どもにさらなる精神的苦痛を与え、逃げたくても逃げられない環境を作っていることを表している。
これは国や法に対する、痛烈な批判だ。
DV加害者を、被害者と接触させてはならないという指摘だ。
家族円満に暮らしている身には、観ていてかなりつらい作りになっていた。
自分で家を建てる話として観ると、まったく共感ポイントはない。
その視点ならば、かなり駄作の部類になると思う。
家はあくまでも、安心して暮らせる「居場所」の象徴に過ぎない。
これはDV被害にあった女性と子どもたちの、「恐怖」と「決別」と「自立」の物語だ。
そう考えると、実に素晴らしい作品だと思う。
そして、ラストの展開は、こちらの想像を超えたものになっていた。
10分程度のそのシーンに驚かされました。