劇場公開日 2021年11月12日

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「聴く力、喋る力、そして映し出す力」ボストン市庁舎 コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0聴く力、喋る力、そして映し出す力

2022年3月4日
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鑑賞方法:映画館

1 ボストンを舞台に、市民と共に創り上げている街づくりの一端を捉えたドキュメンタリー。

2  映画ではボストンを国の縮図として捉えている。その上で、市長が先頭に立ち、トランプができなかった分断や差別の解消を目指し、市民の生活水準の底上げや住みよい街づくりに取り組む真摯な姿を映し出す。

3  映画の多くのシ−ンは、市長など幹部と市民との対話からなる。市は、住環境や貧困、シェルター、薬物などに関わる施策の公聴会や説明会で、市民の意見を聴く。市民は、臆することなく堂々としかも冷静に意見を出している。このことはとても良いことではあるが、絵柄としてはよく似た構図であり、次第に飽きてくる。少し整理できなかったのかなぁと思う。また、市民から出された様々な意見が内部でいかように整理され政策に反映されるのか、そうした過程の描写がなかったのも残念であった。

4 対話のシ−ンの合間に、市長や職員の仕事振りとか街や建物の風景が示された。
 この中では、市長が招かれた退役軍人の集会のシ−ンが印象深い。アメリカが経てきた戦争に駐軍した退役軍人が自分の体験を語る。ワイズマンの反戦に対する願いを感じるシ−ンとなった。また、街の清掃、駐車違反の異議申し立て窓口の場面が面白く感じられた。

5  この映画にはナレーションは付いていない。後付けのナレ−タ−による説明に頼ることなく、取材した映像と音声だけで作り上げた。ドキュメンタリーの本来の姿であろう。また、大勢の市民の姿をカメラが捉えたが、肖像権の許可を得るのは大変だったろうと思う。そして、全編を通じ、社会的弱者に対するボストン市長の取り組みへのシンパシーが滲み出る労作となった。

コショワイ