劇場公開日 2021年4月24日

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「前半だけ観て帰っても差し支えなし」ハイゼ家 百年 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0前半だけ観て帰っても差し支えなし

2021年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

分かりづらい映画だ。
基本的には、手紙や日記をはじめ、履歴書や作文など、一次資料をひたすら朗読することで進められる。
しかし、内容をフォローする解説は一切ない。
観客は、そこから歴史の反映を読み取ったり、ファミリーヒストリーを垣間見ることを強いられる。

スクリーンには、資料やその時々の写真が映されることもあるが、朗読内容とは全く関係ない映像も多い。
なぜだか電車に執着する。車窓からの眺めや、貨物列車が通過するだけの映像が多い。

前半の第1章から第2章の途中までは、興味深い。
・祖父ヴィルヘルムとユダヤ人の祖母エディトとの“混血婚”、および、祖父への迫害の話
・1941~1942年にかけての、祖母エディトのウィーンの実家のホロコーストの悲劇
・母ロージーの、1945年2月のドレスデン爆撃から5月の収容所にかけての話
は、見応えがある。

ファミリーヒストリーを語ることが、おのずと歴史の証言にもなっている、という理想的な展開だ。
特に、ホロコーストを訴えるたくさんの手紙は、早くも訪れる本作のクライマックスだと思う。
この前半で終わっても良かったのはないか?

第2章の終わりからは、全く個人的で、平凡な話の連続だ。特に第5章は、「ハイゼ家 百年」からも話が外れてくる。
登場人物が何者なのか分からないこともある。
公式HPの「モンタージュ」と言うのは褒めすぎで、「百年」にこだわったゆえの、断片の無理筋な“寄せ集め”と言うべきだろう。

きちんとした歴史の証言となっているのは、
・1960年代半ばの、ドイツ社会主義統一党からの父ウォルフガングへの弾圧の話
くらいだろう。
1948年から約5年にわたる、母ロージーの男関係の下りは退屈だ。監督としては、母の性愛は自分の出生を巡るスリリングな展開(ウドと結婚していれば、監督はこの世にいない)なのだろうが、いかんせん長すぎる。ウドの書く手紙の内容にも、特筆すべきものは何もない。

説明を入れないやり方は、ドキュメンタリーの一つの手法として尊重するが、「くどいほど説明的に物語る(公式HP)」方が、自分には好ましい。
ドイツ人なら分かるかもしれないし、“皮膚感覚”として共感できるところも多いだろう。しかし、一般にはドイツ通でなければ理解困難だ。
「共産主義の敗北を認められないロージー」など、どこで語られたのか、自分はつかめなかったところが多かった。

鑑賞時間が取れなければ、前半が終わった後の休憩時間中に帰っても、差し支えない気がする作品である。

Imperator