劇場公開日 2021年4月24日

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ハイゼ家 百年のレビュー・感想・評価

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3.5ドイツの葛藤

2021年10月2日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

旧東ドイツ出身のトーマス・ハイゼが、自身の家族を通してドイツの近年約100年の歴史について語る全5章で構成されるドキュメンタリー作品。
ハイゼ家で19世紀から保管されてた日記、手紙、作文、メモ、写真、などの遺品を紹介しながら、ハイゼ監督自らの視点で218分語るもの。第一次、第二次と2度の大戦の様子、ナチスの台頭、ホロコーストの記憶、冷戦による東西分断、秘密警察シュタージによる支配、ベルリンの壁崩壊、そして冷戦後も国家により希望を打ち砕かれる旧東ドイツの人々。移民排除の実体、など激動の100年をハイゼ家の歴史から振り返るものとなっている。
前半はトーマスの母、ロージーの恋愛物語などをメインに置き、後半は第二次世界大戦後の東ドイツの惨状に趣きを置いたように思った。ドキュメンタリーなので手紙や写真などを写す場面も多いが、現代ドイツの鉄道や道路などのあまり関係のない風景の動画をバックに字幕を読むスタイルで結構疲れた。
ドイツは東西冷戦後も統一ドイツに向けての大変な苦労を経験しているんだと改めて知ることが出来た。
原題は「家とは時間で構成された空間」って意味みたいだけど、確かにそうだなって思った。
長くてしんどいけど、鑑賞できて良かった。

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りあの

5.0映画に入り込みすぎて、ネガティブの尾を引かぬよう注意

2021年6月5日
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鑑賞方法:映画館
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国立大学国際ビジネス研究會

4.5ドイツ史の抱える業を語る一家の歴史

2021年5月2日
iPhoneアプリから投稿

東独のインテリ階級で育った監督の三代のファミリー・ヒストリーだが、全編が家族や友人の手紙や日記、記事やシュタージの報告書などの朗読で、思い出写真や所縁の地の現況の他は現在の東独の鉄道風景が流れるだけ、朗読ドキュメンタリーとでもいうべき異色の作品だが、一家の歴史がドイツ史そのものだった。
祖母がユダヤ人だったため、祖父は教職を追われ、祖母の実家はみな強制収容所へ。戦後の東独で大学教授の父は反体制文化人の糾弾に加わらず、職を解かれ、家族はシュタージの監視下に置かれる。しかし、気骨ある知識人の意地を見せてくれるのは、この映画の朗読以外の唯一の音声である父とミュラーの対話の録音で、これが素晴らしく、東独の体制下で読むブレヒトのアクチュアリティを語っていて、これを聞くとブレヒトを読みたくなる。
ナチスと東独の体制に苦しんだ彼らが冷戦後の市場優先の世界を快く思っていない屈折は理解できる。東西の格差が埋まらぬまま失業者の若者がネオナチや極右に流れていくのを見ても彼らはそこにドイツの抱えた業を見る。冷戦終結直後に反体制作家として脚光を浴びたクリスタ・ヴォルフが後でシュタージへの協力を批判されても、非協力がいかに難しかったかを知る監督の母は優しく慰める手紙を書いていたのが印象的だった。

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Boncompagno da Tacaoca

3.0前半だけ観て帰っても差し支えなし

2021年4月29日
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鑑賞方法:映画館

分かりづらい映画だ。
基本的には、手紙や日記をはじめ、履歴書や作文など、一次資料をひたすら朗読することで進められる。
しかし、内容をフォローする解説は一切ない。
観客は、そこから歴史の反映を読み取ったり、ファミリーヒストリーを垣間見ることを強いられる。

スクリーンには、資料やその時々の写真が映されることもあるが、朗読内容とは全く関係ない映像も多い。
なぜだか電車に執着する。車窓からの眺めや、貨物列車が通過するだけの映像が多い。

前半の第1章から第2章の途中までは、興味深い。
・祖父ヴィルヘルムとユダヤ人の祖母エディトとの“混血婚”、および、祖父への迫害の話
・1941~1942年にかけての、祖母エディトのウィーンの実家のホロコーストの悲劇
・母ロージーの、1945年2月のドレスデン爆撃から5月の収容所にかけての話
は、見応えがある。

ファミリーヒストリーを語ることが、おのずと歴史の証言にもなっている、という理想的な展開だ。
特に、ホロコーストを訴えるたくさんの手紙は、早くも訪れる本作のクライマックスだと思う。
この前半で終わっても良かったのはないか?

第2章の終わりからは、全く個人的で、平凡な話の連続だ。特に第5章は、「ハイゼ家 百年」からも話が外れてくる。
登場人物が何者なのか分からないこともある。
公式HPの「モンタージュ」と言うのは褒めすぎで、「百年」にこだわったゆえの、断片の無理筋な“寄せ集め”と言うべきだろう。

きちんとした歴史の証言となっているのは、
・1960年代半ばの、ドイツ社会主義統一党からの父ウォルフガングへの弾圧の話
くらいだろう。
1948年から約5年にわたる、母ロージーの男関係の下りは退屈だ。監督としては、母の性愛は自分の出生を巡るスリリングな展開(ウドと結婚していれば、監督はこの世にいない)なのだろうが、いかんせん長すぎる。ウドの書く手紙の内容にも、特筆すべきものは何もない。

説明を入れないやり方は、ドキュメンタリーの一つの手法として尊重するが、「くどいほど説明的に物語る(公式HP)」方が、自分には好ましい。
ドイツ人なら分かるかもしれないし、“皮膚感覚”として共感できるところも多いだろう。しかし、一般にはドイツ通でなければ理解困難だ。
「共産主義の敗北を認められないロージー」など、どこで語られたのか、自分はつかめなかったところが多かった。

鑑賞時間が取れなければ、前半が終わった後の休憩時間中に帰っても、差し支えない気がする作品である。

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Imperator

5.0走り出したら止まらない列車

2021年4月24日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

すごくよかった。5つのパートから成る映画で、2の後半ではトーマスの母、ロージーのラブストーリーに重きが置かれる。そこから全てが天然色になったようだった。西ドイツに居る恋人のウドから東ドイツのロージーへの手紙、求婚の電報。ロージーは日記に自分の考えを綴る。ウドとの破局。ベルリンで別の男の子と同棲中に、夫となるヴォルフガングとの恋が浮かび上がる彼女の日記。

東ベルリンで理想を持って生きているロージーの奔放な魅力と知性が生彩を放っている。彼女の息子でこの映画の監督のトーマスは、日記と手紙をただ淡々と読むだけ、コメントを一切つけず。映る写真は若いロージー、美しい裸のロージー。ずっと後になっても、ロージーは夫に、クリスタ・ヴォルフに、理性的で強く暖かい手紙を書き送る。ハイゼ家でのロージーの存在感は圧倒的だ。息子のトーマスは静かに、2014年には母は亡くなるだろうと言う。トーマスと一緒にロージーの生き生きとした時を共有したつもりになっていたから悲しかった。

この映画で見えて聞こえるのは、森、雪が一面に広がる湖、街の風景、駅、ウィーンの街を走る路面電車の一番後ろの、雨に濡れた窓ガラスから映される景色と車内に流れるアナウンス、彫刻、人々、書簡や日記を朗読するトーマスの声、祖父の子ども時代の作文、子どもが描いた絵、沢山の写真、強制移送対象のオーストリア系ユダヤ人の氏名が几帳面にABC順に、住所と共に記載された延々と続くリスト、途中から全ての氏名の最後に、女性にはSara、男性にはIsraelが付け加えられる。劇作家のハイナー・ミュラーと、トーマスの父親で哲学者でありフンボルト大学教授のヴォルフガングとの対話。ハイナー・ミュラーの詩。そして列車と線路。

止まらない列車:すぐ念頭に浮かぶのは、ユダヤ人を詰め込んでポーランドに向けて走る列車。
第一次世界大戦に突入するドイツ。ワイマール共和国を経験したのにあるいはそれゆえに独裁主義に向かうドイツ。第二次大戦後は、西ドイツは英米仏のもと資本主義社会へ、東ドイツはソ連のもと社会主義へ。いきなり壁が作られ、国のために良かれと思い、互いを監視し自分も沢山の隣人に監視される流れに逆らえず進む国。西に吸収合併された東ドイツ、統一を急ぎ過ぎた列車。何年も待たなければ購入できなかった車が、これからはいつでも買える!東ドイツの人達の夢だった車を大量に載せた列車が延々と走る。

資本主義はどんどん進み尖鋭化し、当然の帰結が格差と、気候変動と、見えない所で行われている人と自然の搾取と荒廃。始めてしまったから止まらない。なんとなく止まることもない。いつの間にか止まることもない。列車を走らせたのは人間だから、人間だけが止めることができる。

祖父母と両親の時代からの膨大な量の書簡、写真、肖像画、書類の下書き、学校の宿題の作文、全てが残っている。とてもドイツ的だと思った。ハイゼ家が豊かでリベラルでインテリであることも関係あるだろうが、手紙の時代であり、コンマリや断捨離とは無縁の国だから可能になったドキュメンタリー映画だと思う。長かったけど長さは苦にならなかった。押しつけがましくなく、静かな映画だった。トーマス・ハイゼと共に時間と空間を動き回り、こういう人達が居たことを知り、心を少し強くすることができた。

追記
ホロコースト、シュタージ関連の映画は苦手である、色々な理由から。ただ、フランス人のクロード・ランズマン監督による「ショアー(Shoah)」(1985)は、その長さ(9時間半)にも関わらず見た(多分、日本公開後)。つらかったが見て良かった。これは完全なドキュメンタリーではなく演出も入っているらしい。でも辛い。「ハイぜ家 百年」のパンフレットに載っている渋谷哲也氏の文章の最後を引用する:
-------引用、始まり----------
歴史の証言にはランズマンの『ショアー』のような語りえないことを無理やり口を開かせて言葉にさせるような暴力的な身ぶりは必要ない。そのことをこの映画は静かに訴えかけてくるかのようだ。
----------引用、終わり----------
wiki情報であるが、ランズマン監督はホロコーストを扱った映画全般に批判的である、特に『シンドラーのリスト』は出来事を伝説化するものとして非常に批判している、一方、タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』は気に入っていた、そうである。

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talisman