「エンドロールが秀逸」アウシュヴィッツ・レポート ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
エンドロールが秀逸
前半のアウシュビッツ部分と、そこを抜け出してスロバキアにたどり着く後半に分かれていると言える。アウシュビッツの収容所にはスロバキア人の棟というのがあって、記録係がここに収容されてきた人数などを記録したレポートを、主人公の2人に託し、木材置き場の下に掘って作った穴に隠れて機会を待つ。点呼で人数が足りないため、スロバキア人全員が連日連夜立たされっぱなしになるが、現状を政府に知らせて収容所を空爆してもらうという目的達成のため、団結しているのだった。
上に積まれた材木をなんとか押しのけて脱出、瀕死状態になった時、森で出くわした女性に助けられ、国境を越えてとある村に到着し、村の人に助けてもらう。何とか弁護士を通じて赤十字につないでもらうが、役人が来るまで2週間待たねばならず、その間タイプライターを与えられて、2人は32枚にわたってレポートを書きまくる。役人が来てからはなぜか英語になるが、2人のレポートに役人は衝撃を受ける。そして「スロバキア政府にアメリカと交渉してもらう」と言うが「交渉じゃダメだ!収容所を空爆してくれ」と怒る。結果、我々が知るように、収容所は空爆されることはなく、役人がおたおたしている間に次々とユダヤ人がガス室に送られ、合計数百万人が殺される。彼ら2人はしかし、ハンガリーのユダヤ人12万人を救うことができたのだった。
ラストのエンドロールでは、現代の独裁者、差別主義者、ポピュリストの演説が流される。トランプだけはわかった。これによって、監督の、今この作品を制作した意図というのが観客に明確になった。
途中、アウシュビッツの伍長が、息子の戦死を嘆き、また悲しむ妻を思いやるシーンがある。目の前で生き埋めにしているユダヤ人にも父や息子がいることを想像しないのが恐ろしいが、逆に、ナチスによって、人間の最も冷酷な部分をむき出しにせざるを得なかった人たちなのかもしれないとも考えた。