「命がけで「伝える」という視点が際立つ」アウシュヴィッツ・レポート 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
命がけで「伝える」という視点が際立つ
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アウシュヴィッツ収容所のおぞましさは今でこそ世界中の誰もが知っているが、そもそもの詳細な実態は命がけでこの場所から脱出した者たちによって外へと伝えられた。本作はいわゆる収容所モノではあるが、重点が置かれるのは”生き延びる”ことではなく、むしろ”伝える”ということ。1分1秒が惜しい。このわずかな時間にどれだけの命が奪われていることか。息も絶え絶えに山道をゆく主人公らを駆り立てるのは、そういった人々を救いたい、救わねばという使命感だ。やがてその思いが客観的事実に基づくレポートとなるわけだが、テーブルを挟んで地獄の実情を受け止める人々の表情が印象深い。特にそのやりとりを長回しで描くくだりは両者の感情のうねりがシビアに伝わってきて、極めて忘れがたいものに仕上がっている。主人公がスロバキア人であり、本作がスロバキア映画であるのも、我々がこれまであまり目にすることのなかった興味深い視点と言えるだろう。
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