「生きていることを感じられる映画」ザ・ホワイトタイガー Nozzy_sqさんの映画レビュー(感想・評価)
生きていることを感じられる映画
映画が始まったときから、好きな展開だと思い始め、あっというまに観てしまった。
主人公バルラムが金持ちに成り上がるために選んだ手段は賞賛できるものではないけれど、金持ちになった後、つまり使用人でなくなった彼は、カーストの最下層でいるよりも、(たとえ犯罪により得た金でも)自分の人生を、自分の足で歩んでいることに幸せを感じているように見える。
アショクを殺害するために、瓶の山の前で適当な瓶を探すシーンまでは、
主人公がいかにして大金を手に入れるか、賢い手段でやるのだろうと
期待していたところもあったが、やはり最後は犯罪だった。
ただし、殺害を選んだと言うことは、
それ以外にはインド社会で成功する方法がなかったということであり、
つまりそれほどインドの格差や階級がとても厳しく、
出自のカーストから出るのは並大抵なことではないということなのだろう。
手段はともあれ、その稀にないことを成し遂げたということで、
この 'WHITE TIGER' というウィットに富んだタイトルが大変利いている。
彼のしたことは許されざる犯罪であるが、
この映画のポイントは正義云々ではない。
「インドで金持ちになるには犯罪か政治的手段だ」という主人公のナレーションもある通り、映画だから誇大表現はあるにしろ、生きるか死ぬか、インドはそういうものが渦巻いている社会なんだと感じた。日本社会にいては想像しがたいかもしれないけれど、これが「生きている」ということなんだと感じられる熱量のある映画だった。
主人公が何度も言っていたように、
特定の社会で生まれ育った外界を知らない人は、それが当たり前になっているため自分が搾取されていることにすら気づいていないので、外の世界に出ようなんてアイデアすら持っていない。
(この映画の場合だと主人公は外の世界を知るまでは使用人でいることにとても幸せで、使用人になるために生まれてきたくらいに感じている)
これはちょっとした衝撃だった。
それは、例えば何処かの国で人権侵害や差別が続いている場合、
第三者が指摘したり、何かのきっかけで当事者にとって外部との接触がない限り、
当事者は自分が受けている差別にすら気づく機会がないということだ。
この視点については、今まで考えたこともなかった。
別の世界があることを知ることは、自分が今いる社会を客観的に観察するために、本当に大事なことだ。
と私は海外在住者だからこそ改めて思う。
またインドでは女性蔑視や女性に対するレイプ 事件も頻繁に取りざたされるが、アショクの妻がアメリカで教育を受けた物言う女、義父に対しても自分の意見をはっきり言う強い女性像を登場させたのも象徴的で面白かった。
個人的には良い映画でしたが、日本のレビューだと海外のレビューほど評価が高くないのが興味深い。