「黄金郷の恐怖を呼び戻し、美しい歌声で心に入り込むな」竜とそばかすの姫 とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)
黄金郷の恐怖を呼び戻し、美しい歌声で心に入り込むな
ビデオインアメリカ大徳寺でDVDレンタルして、遅ればせながら観てみました。
セカイ系と言っていいと思う、田舎の高校生コミュニティが世界に影響を与える映画嫌いじゃないです。冴えない女子高生がネット上ではとんでもなく有名人だというのは、ありふれているけどワクワクしますよね。高校生の時にデビューしたAdoちゃんとか本当にそんな感じだし。
この映画ではメタバースはあくまでユニバース(現実)をよりよくするためのツールとして使われましたね。物語のラストで、お父さんと和解し、友達と合唱隊と川沿いの土手で雲を見上げるシーンを経て、鈴ちゃんはもうメタバースに入り浸ることはないでしょう。だって、信頼できる仲間たちと歌えるから。ネットは現実のコンプレックスを隠して、現実逃避する場所だって認識でしょうか。そうであればいいんですけどね。
「U」の中で強力な存在であればあるほど、ログインしてる時間が長いんだから、現実では浮世離れしてるんじゃないかと思ったのは『銀魂』とか『ノゲノラ』の影響ですね。伝説のプレイヤー「M」はマダオだったし、伝説の「 」は引きこもりの兄妹だったし。ん?コレどっちも本当の本当はすごい人たちだな…マダオは外交官だし、空と白は超主人公だし… だからジャスティンがアンヴェイルされて、くたびれたシャツでタバコ咥えたオッサンが出てくるの期待してたが
だがこの「U」は『ソードアート・オンライン』と違って、自分のアバターは自分の身体的・精神的特徴が出るとのこと(そういえばSAOは1話で全員アンヴェイルされてたな)。鈴ちゃんは本当はとても美しい歌声を持っているから、そのまま反映されたと。つまり劇中の有象無象はのアズたちはネットに接続した現実の人々の、本質に近い姿とも言えますよね。
なんですけど私は、『メイドインアビス烈日の黄金郷』のなれ果てたちにしか見えなかったんですよね。『メイドインアビス』は恐ろしい物語ですがファンタジーなので、観るのをやめれば現実に侵食する効果は薄いです。ですがこの『竜とそばかすの姫』は、現実が舞台の物語、かなり病的な里親にひっかかれたら血は出るし、雨に濡れる。そしてこの映画はミュージカルなので、美しい音楽や歌声が流れ、そしてそれらは理屈を越えて心に流れ込んでくるものです。
つまり私の本作での映画体験は、黄金郷なれ果て村の恐ろしさが、美しい音楽と歌声と映像に乗って心に流れ込んできた、というやぶ蛇な体験でした。
