「絵と音楽は素敵!でもストーリーは...」竜とそばかすの姫 いっしーさんの映画レビュー(感想・評価)
絵と音楽は素敵!でもストーリーは...
主人公の母親は増水した川から見ず知らずの子供を助けて身代わりに死んでしまう、そしてそれがネット上で「自分の子供がいるのに他人の子供を助けて死ぬとは何事か」「正義ごっこしてるからそう言うことになるんだとんでもない」といった批判を浴びせられ、母を失ったショックで現実世界で歌うことができなくなってしまった主人公が唯一の居場所で合ったのが仮想空間のUであった。と言うのが序盤のストーリー。
母親がバッシングされて現実世界に居場所を無くした主人公の描写をみて、「昨今見受けられるネット上での過剰なバッシングなどはお節介であり、そんな物を気にせずに自らの道を歩めば良い」みたいなテーマなのかなと思いながら鑑賞していました。ところがこれがテーマだとすると、ラスト「竜」の正体の彼を助けに行く件が完全にその「ネット上のおせっかいな声」となってしまいます。ではこの映画のテーマとはなんなのか、それは「愛」ではないかと思いました。
母親は人への愛を持っていたから他人の子供を助けることができた。父親やしのぶくんは主人公への愛を持っているが故に主人公をことあるたびに気にかけてくれました。カミシンとルカちゃんは最終的にお互いを愛し合う関係になります。
一方その他の登場人物は、「竜の正体を明かしてしまえ、とんでもないやつなんだから吊し上げられて当然だろ」というスタンスで描写されています。これは他者に愛がない証拠。しかし最終的に主人公と竜は愛を取り戻し、日常生活に戻って行きます。竜の父親は愛がないままなので、これからも竜たちを傷つけるでしょう。またUの住民(一般市民)たちもまた、他人への愛がないままです。Uの世界の中でまた目立つものが現れれば、寄ってたかって叩くその生き方は変わることはないのです。
こうして考えると、この映画はまったく救いようのないバッドエンドだと思います。一番怖いのは、このバッドエンドなストーリーを主人公たちはもろともせず「笑い飛ばしながら」幕が降りるところです。もろともせず、というよりバッドエンドだと気がついていないのです。なぜなら主人公が取り戻した愛は結局「自分自身に対する愛」だからです。だから現実世界でも歌えるようになった、だから竜がどうなろうが関係ない。Uの世界の住人が今後も何かを叩き続けようがどうでもいい。
と鑑賞直後の「?」でいっぱいの頭を整理する意味も込めて思ったことを素直に書きましたが、おそらく細田さんはそんなバッドエンドを書きたかったわけではないのでしょうね。とにもかくにも構成があまりにも下手くそで、何が言いたいのかさっぱりわからなかったと言うのが本音です。話の大筋も説明不足な部分や登場人物の行動の動機が不明な部分が多々あり、鑑賞者をかなり置いてけぼりにする展開でした。
細田監督の映画は昔から「深みがない」と散々言われてきました。あくまでキャラクターが「話を結末へ進めるために必要な最低限の役割を持ったコマ」としてしか描かれておらず、そこに現実味がないからです。故に感情移入がしにくく、まるで昔話をみている感じを受けます。一方で今回の映画では本筋そのものに欠陥が多く、また「それ本当に必要?」という要素があまりにも多く、とっ散らかりすぎていて収集がつかなくなってしまった印象です。お世辞にも面白かったとは言えない映画だと思います。絵や音楽は良かったので本当にもったいないです。