「ネタバレあり【考察】責任感がないのは描写」竜とそばかすの姫 すきやき缶詰さんの映画レビュー(感想・評価)
ネタバレあり【考察】責任感がないのは描写
とにかく音楽がいいです!映像も綺麗です!!
あまりにも評価が低いので悲しくなって少しあげました。
ストーリーは酷評が多いですが、個人的には考えさせられるところも多く面白い作品でした。たしかに詰め込みすぎで一つ一つが薄くなった感もありますが内容が意味がわからないということはなかったです。賛否両論あふれるネットの世界でベルという(どちらかというと)賞賛に目を向けた場合と、竜とい中傷に目を向けた場合がうまく描かれていました。
メインストーリーはすずが昔理解できなかった何かを失っても助けたいという思いから衝動的に動き母と同じ気持ちを体験するとともに変化していくというものでした。
そしてそこに
●ルールと正しさ
●母性(父性)の押し付け
●孤立と独立などのテーマと社会問題、あとありがちなネットの問題(ネットの人間も普通である、思っていた人と違う、など)も混じっていました。
●ルールと正しさ
すずの母親について
川に取り残された子にも親がいたはずだし他の方法があったにもかかわらずリスクを背負い自分で助けたいと思ったから助けた姿と、すずのも危険を冒してまで女子高生が1人で関わる問題ではないのに助けた姿にはルールに縛られない正義感があり十分重なると思いました。
また虐待していた父親は自分自身で決めたルールにより間違った正義を振りかざしてしまっていた、また助けを求めても行政はうごかない、これもルールに縛られた正義の批判として描かれていました。
現実世界ではルールの存在する正義感ない正義感、両方にメリットデメリットがあるのでどちらが正しいということはありませんがこの作品では父親はすずの純粋な縛られない正義に自分の正義が覆され倒れていました。
またジャスティンと父親は同一人物ではありませんが最後に財力、地位の象徴である時計をアップにすることでどの世界でも力の強いものが弱いものを圧迫することを表現できていてよかったと思います。
またルールについては恋愛についても感じました。奥様方はアメリカに行った際相手が中学生だったため何も無かった、と言っていますが対照的にヒロちゃんは年上の先生が好きなことを描き年齢的ルールに縛られていることを描いていました。個人的にはすずはこの作品でルールから放たれる描写が多いので、竜が実は少年であることを知った上で、年齢とは関係なく恋ではなく愛に行きついているように思えました。
●父性/母性
父との不和の解消についてですがこれはすずが父に親子としての関係を求めすぎていたことに気づいたからではないでしょうか。他人として受け入れることで初めて父を許せたのでしょう。
また母性についても考えさせられました。面倒を見ないながらも母親ぶる町内会の人への視聴者の苛立ち、お母さんみたいと言われるしのぶ、最後のすずの愛は母性ともとれること、ネットでのすずの母の行動への批判の声、自分を置いていった母への恨み、全てが私たちのなかの「母性」という固定観念を思い出させました。
●責任
まず奥さんたちについて、すずの東京への出発を止めないのは大人として無責任でダメすぎるとよく書いてありますが、その通りです。そう思います。
ただその人たちは母が飛び込んだときも、仲が良い描写(写真から)があったにもかかわらず止めなかった→今回も母と同じく危険な目に遭うにもかかわらずとめなかったことから、普通は無償で他者を助けない、責任を取りたがる人はいないことを示しています。
また虐待についての「僕も頑張るよ」もネットでも現実でも結局は他人が干渉することはほぼできない、自分で責任を取りなんとかしていくしかないことを残酷に示していたと思いました。
●その他
◯虐待されている子の場所の謎解き?
ご都合です。早すぎるし普通に無理だろってなるけどネットの情報から予想以上に早く見つかることを、誇張して描くために仕方ないかなとも思います。
◯クリオネの育てている薔薇がめちゃくちゃされるところと弟の部屋の(あまり覚えていませんが)薔薇の花瓶が割られるところはリンクしていておお…となりました。
◯ 都会に住みながらも孤立していて誰にも気づいてもらえない、田舎では過疎化が進み街自体が孤立している。加えて町の人は実際に世話を見ることはほぼないため精神的には孤立している、社会と個人の孤立問題も描かれていてよかったです。
◯ ボート少年の必要性
「なんでもできる」ネット内ではなく現実を生きているにもかかわらず現実でなんでもして、のけものにされながらも気にせず、なんだかんだ幸せに過ごしている人もいる、というコンセプトでいいと思いました。
◯ 片足のない犬
おそらく保護施設から?母が受け入れたのだと思います。すずが弱いものを守る心を本質的に持っていること、また疑問を持つ視聴者に対し、ルカがなんの疑問を感じずに遊ぶという描写によりその心のフラットさを示していたと思います。
またこれは醜い竜と言われながらもあざに見えない、色、特徴にみえる理由にも繋がっているのではないでしょうか。視聴者にとって、多様なバーチャル世界において竜は異質には思えない中、多くのキャラに批判されている、これは現実世界での多様性理解と通じるところもあるのかなと思いました。竜の場合は傷で苦しみ、犬も同じように脚がなくおそらく不便な生活をしている、また現実世界にはもちろんそういう人もいる。ただ中にはそれによって偏見を持ち忌み嫌う人も大勢いる。そのなかでただ大変さを理解するベルが犬と居るすずと重なりました。
また障害のある弟を大事にする竜と足のない犬を大事にするベルの社会的に力のない者を世話する構図の重ね合わせとも言えるかと思いました。
◯オマージュについて
途中シーンに加えて、Uがもしその精神的な状態を反映しているなら抑圧された環境と父からの心の傷で力とあざを持っていた竜が最後に精神的に解き放たれたことでUでも野獣からすこし変わったのでは…?と予想しました。
●よくわからなかったところ
◯なぜしのぶくんはベルがすずだとわかったのか◯なぜ子供達は外にでていたのか
全く分かりませんでした。
完成された物語というよりは不安定な現実世界の考え方を表しているようでした。人と人とは繋がっていることを前提で見ていた主人公が誰にも依存しないながらも周りを受け入れる、そしてネットも現実も結局は固定観念に縛られているだけで自分の心の持ちようで変わってくるという、いい映画でした。