劇場公開日 2021年7月16日

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「膨大な情報量と美しい映像、そして力強い歌声に満ちた一作。」竜とそばかすの姫 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0膨大な情報量と美しい映像、そして力強い歌声に満ちた一作。

2021年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『サマーウォーズ』(2009)の「OZ」を彷彿とさせるような巨大インターネット空間「U」という舞台装置をはじめ、細田作品の様々なエッセンスが凝縮されており、かつそれらが過去作と比較して大幅にアップグレードされています。

細田監督も明言しているように、本作の重要なモチーフの一つは、『美女と野獣』、それも1991年にディズニーが製作したアニメ作品です。単なる設定だけでなく、オリジナル作品のミュージカル要素もかなり大幅に取り込んでいるため、必然的に主人公すず/ベルの「歌」そのものが、「U」の伝説的なアーティスト「ベル」、という単なる設定を超えて、作品の根幹ともなっています。すず/ベルの声を担当した中村佳穂の歌声は、非常に力強さと美しさを兼ね備えており、この、「ベル」が備えるカリスマ性に強い説得力を与えています。最初はすずの声優とベルの歌を唄っている人は別なんだろうと思いこんでしまうほど、声質を使い分けていました。素晴らしい仕事だと思います。

後半になると物語の整合性に綻びが生じ始め、特に最終盤近くのある「事件」については、現実の社会で生じている問題と強く関連しているにも関わらず、深掘りを避けているきらいがあります。他にもいくつかの点で引っかかりを感じたのですが、それらのほとんどは些細な事として受け流せたのですが、この「事件」の顛末については、明確に描写不足と感じました。

ただし、本作は映像に込められた情報量が圧倒的なため、一回では全ての要素を消化しきれなかったという実感があります。上記の疑問点も、再見すると解消されるかも知れません。それだけ濃密な語り口であるため、何度も(劇場で)鑑賞する価値は十二分にある作品だと感じました。

yui