「目指すは「東洋のディズニー」か? 遂に開花した細田守の作家性🌹」竜とそばかすの姫 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
目指すは「東洋のディズニー」か? 遂に開花した細田守の作家性🌹
電脳空間〈U〉の中では歌姫ベルとして華々しい活躍をするも、現実世界では冴えない毎日を送る女子高生のすず。
彼女と「竜」と呼ばれる存在との出会い、そしてその出会いを通して成長していく様を描いたファンタジー・アニメーション。
監督/原作/脚本は『時をかける少女』『サマーウォーズ』の、日本を代表するアニメ監督、細田守。
すずの幼馴染であるしのぶくんを演じるのは、『君の名は。』『翔んで埼玉』の成田凌。
すずのクラスメイトであるカヌー部部員、カミシンを演じるのは『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』といった細田守監督作品にも出演している染谷将太。
すずがコンプレックスを抱いているクラスのマドンナ的存在、ルカちゃんを演じるのは『オオカミ少女と黒王子』『ダイナー』の玉城ティナ。
すずの父親を演じるのは『渇き。』『バケモノの子』の、日本を代表する名優、役所広司。
〈U〉のお尋ね者である謎の存在、「竜」を演じるのは『るろうに剣心』シリーズや『何者』の佐藤健。
マスコットの様な見た目をしたYouTuber、ひとかわむい太郎&ぐっとこらえ丸を演じるのは、『バケモノの子』『亜人』の宮野真守。
1956年、日本アニメ史における最重要スタジオ、「東映動画」が設立される。
「アニメーションの神様」と言われる森康二を初めとして、大塚康生、高畑勲、宮崎駿、小田部羊一などのレジェンドを排出したこのスタジオは「東洋のディズニー」を目指して発足された。
この「東洋のディズニー」という言葉を実現するかの様な作品を、東映動画出身の細田守が創りあげた。
キャラクター・デザインは『アナと雪の女王』などのキャラクター・デザインで知られるジン・キム。
見た目だけでなく、すず/ベルの卑屈で殻に閉じこもる性格は『アナ雪』のエルサを思わせる。
ベルという名前、そして見にくい姿をした怪物とのロマンスという展開からは『美女と野獣』の影響が感じられる。
というか、竜の屋敷から逃げ出すベルがジャスティスに取り囲まれ、間一髪のところを竜が助けに来るという展開。そのまんま『美女と野獣』で観たんですけども…。
着飾った2人がダンスホールで踊るシーンも出て来たし、屋敷にガストン的なやつが押し入ってくるし、けっこう臆面もなく『美女と野獣』の展開をトレースしている。これディズニーの許可取ってんのかな?
現実世界では歌うことができなくなったすずが、電脳空間で姿を変えることで歌うことが出来る様になるという展開は、望む姿へ変身した代償として歌うことを封じられた『リトル・マーメイド』と鏡像の関係にある様にも感じられる。
ほとんどミュージカルといっても良いような、中村佳穂の歌唱力を全面に押し出した作風であり、ここもディズニーを意識していると言わざるを得ない。
このように書き出すと、まさに「東洋のディズニー」と呼ぶに相応しい、明るくて心の踊るプリンセスアニメかと思われるだろう…。
しかし、本作の内容はディズニー・アニメとは程遠い。よくぞこの内容でファミリー向け夏休みアニメとして売り出したな東宝っ!
これまでの細田守作品があまり好きになれなかったのは、あまりにも綺麗事が過ぎる世界観が鼻についたから。
ファミリー向けを狙っているからか、良い子ちゃんに収まってしまい作者本人の内面が全く見えてこない、いわゆる「パンツを履いたまま」の作品作り。
これでは真に人を感動させることなんて無理でしょ。と思っていたのだが…。
すずのお母さんが溺れている子供を助けるために荒れ狂う川に向かうというヒロイズムあふれる場面。
またいつもの通り綺麗事を描くのかと思いげんなりしたのだが、その失望は裏切られた。
死んだすずの母親に対して残酷な(しかし一理ある)コメントが寄せられ、それを観たすずが心を病んでしまうという展開。
このシーンを観た瞬間に、「遂に細田守がやってくれた!」と嬉しくなった。
『ぼくらのウォー・ゲーム』や『ONE PIECE/オマツリ男爵と秘密の島』、『時をかける少女』などの2000年代の細田守作品から感じられた、ナイフのような鋭さ。
これらに共通して描かれているのは、残酷なまでに主人公を追い詰める世界と、それに抗う姿。
作品の中では決して主人公は甘やかされない。キャラクターを突き放すような冷静さと、燃えるような情熱が共存するストーリー。
自身の立ち位置に満足しておらず、さらに上を目指したいというハングリー精神が画面から伝わってくるような熱意にあふれていた。
細田作品に久しく失われていたこの残酷さと情念。本作ではそれが戻ってきているように感じられた。
本作で執拗に描かれるのは、表現者に対するバッシング。
誹謗中傷にも近いコメントを見て傷つくすずに、親友のヒロちゃんは「賛否の意見が半々なのは良い作品の証拠」であると告げる。
このセリフには細田守の想いが込められているように感じられる。
というのも、前作『未来のミライ』はアカデミー賞にノミネートされるなど高い評価を受ける一方で、興行的にはそれほど振るわず、一般の観客からの酷評も少なくなかった。
この経験が本作に大きく影響を及ぼしたのではないか。
細田守に対する激しいバッシングは、作品に毒気を与えるに至った。
ポスト宮崎駿などとメディアにもてはやされたのも今は過去。
宮崎駿の愛弟子である庵野秀明は『シン・ゴジラ』により『エヴァ』だけのクリエイターではないことを世間に知らしめた。
宮崎駿の元で腕を磨いた片渕須直は『この世界の片隅に』で、アニメファン以外の人間にも広く受け入れられた。
サブカル好きにしか名を知られていなかった新海誠は『君の名は。』で一躍時の人に。今では最も注目されるアニメクリエイターとなった。
上記の3作品が発表された2016年。ここを境にアニメ界の潮流が変わった感じがする。
『バケモノの子』『未来のミライ』が賛否両論だったこともあり、細田守が持て囃された時代は完全に幕を閉じた。
この残酷な現実が、細田守の新作である本作に何らかの影響を与えたことは間違いないと思う。
相変わらずシナリオはめちゃくちゃ。
すずが想いを寄せる幼馴染の忍。彼は「竜」の正体をミスリードさせる為に存在するキャラクターなのだろう。
その意図はわかるのだが、はっきり言ってキャラが弱すぎ。全く魅力的なキャラクターに見えず、ほとんどただのモブ。
クライマックスの展開はあまりにも強引。あんなに都合よく少年達の家が見つかっていいのか?
大体高知から東京まで、夜行バスで何時間かかるんだ?10時間以上かかると思うけど、よくあの少年たち無事だったなぁ…。
石黒賢お父さんの迫真の雄叫びからのヘタレ化にはちょっと笑った😅
ベルがジャスティスに尋問されるシーンとか、ログアウトすりゃあいいだけじゃないの?とか思ったし、ちょっと現実⇄〈U〉の移動に対するルールが決まって無さすぎる。
そもそも、ベルがあそこまで竜に関心を持つ理由が弱いし、竜が執拗にジャスティスに付け狙われることに対する理由付けも弱すぎる。
かなりご都合主義的なところが多く、無駄なキャラクターも多い。脚本がぐちゃぐちゃなのは間違いないと。
でもこの作品に限ってはそれでも良いと思う。
なぜって細田守のパッションが画面全体から伝わってきたから🔥
主人公ベルの見た目が、コンプレックスの元であるルカちゃんをベースにしているという設定が素晴らしい✨
彼女の卑屈な性格を端的に表しているし、自分とはかけ離れた姿になるという点では『美女と野獣』における呪いと共通している。
『美女と野獣』では醜い姿になることが「呪い」であった。これは非常にわかりやすい「呪い」の表現であるが、匿名性を良しとするネット社会における「呪い」とはそれとは全く反対のものなのではないか。
現代における「呪い」とは匿名性を隠れ蓑とし、本当の自分よりも大きなもの、優れたものであるかのように振る舞ってしまうことであると本作では説いている。
『美女と野獣』では、他者からの愛により呪いが解けるが、本作では自らを愛することにより呪いを解いている。等身大の自分を認めることが、呪いを解くということなのだ。
ベルというキャラクターの成り立ち、他人と比較してしまい卑屈になってしまうというすずの性格、父親とのモヤっとした不和etc…。
全体を流れる重苦しい雰囲気は全くファミリー向け夏休みアニメにそぐわない。
だが、ここまで思春期のモヤモヤをリアルに描き出すことができる作家がどれだけ存在しているのか。
細田守はこのような陰鬱な描写が恐ろしく上手いということを、本作で証明してみせた。
これまで細田守作品の家族描写がピンとこなかったのは、本来は陰を描くことに長けている作家が無理やり陽を描いていたからなのかも。
石黒賢お父さんの虐待シーンの生々しさは、本当に胸に迫るものがあった。短いシーンではあるが、『おおかみこども』の親子描写よりもよっぽど真に迫った表現だと思う。
もう明るい青春映画は新海誠に任せ、これからは青春の痛みや暗さを描いた作品を作るのが良いのではないか?
細田守の資質は絶対にそっちだよ。
今回で遂にその細田守の資質が開花したと思う。
手放しで褒めることは出来ないガバガバさではあるが、愛すべき映画である。
細田守の次回作にも期待が膨らむ!
たなかなかなかさん、こんにちは。「呪い」についての解説、興味深いです。
本作は映画館で観る価値は十分ありましたが、映像の素晴らしさとは裏腹に、なんだかゲームっぽいと思いました。途中で出てくるキャラクターやアイテムは何を暗示している?この言葉の意味は?それを解きながら観る感じで。
絶賛のレビューを読むと…映画の説明されてない部分を かなり深読みすることで 感動に持って行ってる方が見受けられます。その方はそう思うかもしれませんが、私には共感出来ないので…。映画というものはある程度の共感が有って初めて 成り立ち、映画への共感は 映画を観た多くの人に共通するもので無ければならないと思うので…この映画は そこに失敗してるような気がします。
でも…細田監督から言わせれば、わかる人には解るで良くて、解らない人が未熟とでも思っているのかもしれません。
コメントありがとうございます。そうなんですか…諦めて…😅
細田守監督に物申せる人物はいるのでしょうか? レビューがその役割を果たせれば良いのですが。
カンヌ国際映画祭などの箔が着いてしまうと、中々、省みる機会は無さそうな気もします。😓
たなかなかなかさん 共感をありがとうございます!
いや…たなかなかなかさんのレビュー 面白かったです!細田監督を 上げたかと思うと下げたり、また上げたり、結局 細田監督が大好きなんですね!😊
推測や考察が興味深くて凄いです!でも…そこに 私は共感出来ないんですよね。ごめんなさい。
でも…細田監督愛が素晴らしい!と思います。