「シナリオ、キャラクターは最悪、音楽と映像は最高なチグハグ映画」竜とそばかすの姫 みんみんさんの映画レビュー(感想・評価)
シナリオ、キャラクターは最悪、音楽と映像は最高なチグハグ映画
中村佳穂さんの歌を含めて劇中の音楽はどれも素晴らしかった。
また、ベルのライブシーンなど美しさで曲を際立たせている。
見ていて引き込まれたし、音楽は映画内だけに留まらず、CDなどを買ってでも聞く価値があると言える。
ただし、シナリオだけは最悪としか言い表せなかった。
ツッコミどころの多い展開、感情移入しづらい主人公たちの行動原理。
映画的、ファンタジーな展開にも限度があると思ってしまう。
何より、キャラクター全てがシナリオの操り人形で終わっている。
自然に生きている感じが一切なく、「こういう展開にしたい」「こういう絵面にしたい」というのがありきで駒のようにキャラクターたちが動かされていて見るに耐えなかった。
故にキャラクターたちは常にブレており、行動や心理、内面の造形が揺らいでいる。
それは終盤になるに向けて、雑さを帯びてくる。
ネット上で鈴に素顔を晒すことを勧めたあたりから特に描写が気になった。
今時は田舎育ちでもネットで素顔を晒す危険性くらいは判っているだろう。
しかもフォロー大勢のアカウントの持ち主が素顔を晒すのだ。
なのに誰もこの後、鈴がネットで叩かれる、住所や個人情報を特定されるとか考えてない。
虐待から救うためというのも素顔を晒す行動も映画としては見せ場で、それ自体は良い。
だが、ちゃんと周りがちゃんと危険性を提示し一旦、止めてから鈴はそれを振り切って素顔を晒すべきだった。もしくは周りが例え叩かれても晒されたりしても守ってやる、支えてやるとか言ってあげて欲しい。
親切で鈴を思っている友人や合唱団の大人たちのはずなのに、「鈴にこうしてほしい」という気持ちばかりが見えて、劇中を通して、気遣いができる、フォローができる友人や大人たちを描いていたはずなのに、いきなりこの描写で、雑で身勝手なキャラクターに変わってしまう。
誰一人として、素顔を晒すかどうかの選択が迫られる中で「鈴を大事にしたい」「守ってあげたい」が伝わっていこない。
ずっと鈴をプロデュースしてきたヒロちゃんも「折角築き上げたベルの秘密がー」とか言って素顔を晒すことを止めていたが、正直理由がそれだけかとガッカリした。
ネットに詳しくてプロデューサーもしていたなら鈴が顔を晒すことで起きる危険性は想像できるはず。しかも彼女は劇中で、母親を失った鈴に気を遣い、自ら母親の話題を口にした時は申し訳なさそうにするなどの配慮ができる人物としても描かれていた。
鈴に顔を晒させるという展開にもっていきたいためか。
それとも時間がないから、さっさと展開を進めたいと思ったのかは分からないが。
いきなりネットに詳しくない、気遣いや配慮がない友人になって、ガッカリした。
他にも気になる点はある。
最後、鈴一人で虐待父親とその子達の所に行かせるところ。
暴力振るってる場面を見てるなら友達も合唱団の大人たちも一緒に行ってあげろよ。
鈴のために校舎に駆けつけたりと優しくて思いやりがある癖に変に薄情だな、と思った。
同監督の作品であるサマーウォーズ、おおかみこどもの雨と雪、バケモノの子、未来のミライ。
これらでは大人がある程度、大人としての役割や責務を負っていた。
自分の子を守る、育てる、大人としてできる限りのサポートをする等。
例えば、サマーウォーズ。(以下ネタバレにもなるので見ていない人には注意していただきたい)
この作品でも子供であるカズマがラブマシーンと戦ったり、子供である健二が問題解決をしたりと子供が立ち向かう場面が多い。
だが、それを大人はただぼーっと見ていた訳ではない。
できる限りのサポートをし、人工衛星が落ちてくる中でも健二を一人残すようなことはせず、側で励まし、人工衛星が落ちてきた中では子供や家族を守るように覆いかぶさったりと、細かい部分で大人は他者を守ることをしっかりとしていた。
それに対し、今作はどうか。
今作の大人たちは子供を見守るというより、見捨てている。
鈴の父や合唱団の大人たちも良いことを言っているように見えて、虐待するような暴力的で、犯罪に王手をかけているような男の元へ、女子学生を送り出している。
子供を見守るという行為を履き違えているようにしか見えない。
なんだか鈴が一人で、助けに行った方が絵面がいいから、とか。
そういう理由でキャラクターたちを動かしているようにしか見えない。
加えて、最終の虐待父親との対峙。
諦めず対峙してくる鈴の顔を見て腰を抜かす。
いくら映画的な処理でも鈴が退かないからって虐待父親が腰抜かす訳がない。
子供が逃げたら外まで追いかけてきて、しかも初対面の鈴をいきなり顔を引っ掻いたり、肩を乱暴に揺さぶる男。
それが突然、気迫か何かにおされたように腰を抜かす。
悪役キャラの性格や態度の描写までものがぶれ始める。
ちゃんと、このキャラクターたちのバックボーンや環境、性格や態度などを考えて造形しているのかと疑問をもってしまった。
そして、最後の最後。
助けられた少年たち、顔から血が出ている鈴を見てそれぞれの第一声が気になった。
少年たちは虐待されてきた分、自分や他人の痛みに敏感のような立ち振る舞いをしていた。
父親から乱暴されそうになっても、互いに庇いあったり心配したり、守りあったりしていたりと。
のだが鈴が血を流しているのに対し、「大丈夫?」でも「ありがとう」でもない。
自分達の言いたいことだけを言う。
ここでもキャラクター描写が崩れて、終わりまでガッカリした。