「現実と仮想世界のギャップを埋めるべくをキャラクター達が駆け抜ける!」竜とそばかすの姫 Nimbusさんの映画レビュー(感想・評価)
現実と仮想世界のギャップを埋めるべくをキャラクター達が駆け抜ける!
仮想世界を通じて自分と向き合い人と接することで成長する物語。
主人公視点で物語は進んでいく。
…こう言うとシンプルだが、個人的には以下の点が優れていると感じた。
①異なるアニメーションで描く「現実世界」と「仮想世界」とのコントラスト
ストーリーには物理的な制限(都会と田舎距離、障害(ワンコの足))、人間関係のしがらみ(親子、友人、社会的な役割)、数多のルール(法律、条例等)に縛られる閉塞感のある現実世界と現実世界の様々な要因から生まれる閉塞感のギャップを匿名アカウントAsによって解消できる仮想世界が存在する。
単調で色彩の鮮やかさに欠ける「現実」と新鮮さ・解放感からくる色鮮やかな「仮想世界」の使い分けが秀逸だった。
②「抑圧」している、されている自分との対峙する各キャラクターの描き方
主人公は母親の事故(本編中では多くは語られないー正確には主人公は語ることが「できない」のであろう(「なぜあの子を助けようとしたの?」と言うセリフ))
をきっかけに母親を想起するもの(父親・歌等)とは半ば無意識に距離をおく主人公が描かれている。
一方、「竜」は「怒り」だけで暴力を振るっているわけではなく、対照に父親からの「暴力・存在否定」と世間からの「孤立感」に苦しんでいた。
この各キャラクターの「抑圧された」心情(悲しみと怒り(「なぜ?」という気持ち)が混在した微妙で難しい感情)やをしっかり形にしているところが素晴らしかった。
③仮想世界を用いて描かれる「自己実現の形の変化」と「アウトプットの大切さ」ー「ベル」と「竜」
(自分が本当に好きなものに気づくこと)+(好きなもので認められること)ことは現代において、多くの人が求めているものであろう。現代における自己実現の形を「ベル」を通じて鮮やかに描かれていてよかった。
対照に父親からの「暴力・存在否定」と世間からの「孤立感」による苦悩をうまく伝えられない「竜」の存在((仮想世界での抑圧されている感情の発散(暴力))+(上手く感情を伝えられないこと)から仮想空間(ネット世界)においても現実世界と同様にアウトプットの仕方が大切であることが丁寧に描かれていてよかった。
④批判、追跡することの意味ー仮想世界での根拠のない否定的な言葉の力はどこまであるのか?
物語で要所要所で出てくる不特定多数からの誹謗中傷の描かれ方が非常にリアルだった。見ていて思わずムッとなるくらいだった。
ただ、自己実現の形が徐々に変化している現代においてこの誹謗中傷はどうしても出てくるものであるし、また一方で正当な手段で自己実現をした人にとって、根拠のない誹謗抽象は何の意味も効力も持たないことを俯瞰的に表現しているのが秀逸で面白かった。
また、途中で警察を自称するキャラがでてくるが、「匿名の解除」を脅しに私的制裁を加える正義のあり方に、やたらと同調圧力を強制するメディアや掲示板のコメント欄と似たような物を感じた。確かにネット上では具体的な法律や違反した場合の罰則がない。悪いことをしないのはもちろんだが、「正義のようなもの」を振りかざし私的制裁をする一個人やメディアには問題はないのだろうか。こういった問題をしれっと描いているところがまた秀逸だった。
⑤自身と他人を受け入れ自己開示、Unveilする勇気
「竜」をもっと知り、そして危機から助けるため、「色鮮やか」な仮想世界の中で自ら本当の自分をUnveilした主人公の描写に感動した。アニメ描写が異なっている点もこだわりを感じた。他者を知り受け入れること、他人の世界に踏み込むことの難しさに対して、仮想空間での権利とも言える「匿名性」を捨ててまで立ち向かう主人公の姿に「勇気」、「誠実」、「愛」を感じた。このときの観客の反応もまた興味深く考えさせられた。ライブ後、仮想世界と現実世界のギャップを埋めに敢えて直接会いにいく描写も良かった。父親からのチャットのシーンからあの母親あっての主人公なのだな、と感じた。
主人公と「ベル」はこのときに初めて一体化し、ラストには現実世界で友人知人と歌えるようになっている姿にまた感動した。
以上である。
及第点としては、主人公が竜に固執するきっかけが薄いように感じたため、ベルと竜の遭遇シーンは別のやり方のほうがいいように感じた。
(事件後に遭遇、手当する→間近で増えていく傷を見る等)
全体的に主要人物の描写が丁寧に描かれており、非常に見応えがある作品になっていた。
また、ミュージカル風になっており、曲調もよく、歌詞もダイレクトに伝わるもので素晴らしい。
改めて次回作が楽しみである。