劇場公開日 2021年7月16日

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「魅入るのが先か、白けるのが先かの勝負」竜とそばかすの姫 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0魅入るのが先か、白けるのが先かの勝負

2021年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

細田作品の強みというのは、東映時代から周知の演出力と、独立後に顕著になった「少年が美しい」ことの2点だと、あえて言い切ってしまいたい。今回はさらに、最近の細田さんにしては珍しくヒロインも可愛く描けているので、まずはその事を素直に祝いたいです。

お得意の仮想空間や大好きなケモナー要素、男女の青春劇の挿入など、かなりセルフオマージュな作りになっていて、ややもすると幕の内弁当的な散漫さも見えてしまうけれど、映画を牽引する「歌」の力と映像美で押し切ったなと言った感じ。

とにかく音響のいい劇場で見てほしい。中盤、すずが川辺でラブソングを口ずさむシーン、繊細な作画と露光の使い方が秀逸(ちょっと山田尚子っぽい)。終盤の歌唱シーンもゆったりとした動きながらも枚数をかなり使っていて、凄くいい演技をさせており、印象に残る。何より、ライブに行かれる方は分かると思うのですが、スポットやレーザーが全部消えて、一切の演出が無い「間の」時間。暗いなか、観客のざわつきだけが聞こえるあの独特の雰囲気が見事に再現されています。「TVシリーズでやれ」なんて声もあるけれど、とんでもない。これは劇場で見てこそかと。

全体のまとまりはお世辞にも良いとは言えず、多方面に目配せした挙げ句、それぞれが掘り下げ不足になっているのは事実で、わたしは鈴ちゃんに共感できたのと友達のヒロちゃんが面白いのと物静かな美お父さんと忍くんのちょっと癖のある目元が良くって最後まで楽しめたのですが、否定派の感想にもいちいち納得は出来てしまう。ただ、終盤のすずの行動は作品のテーマを考慮すれば必須であり、これがピクサーのキャラクターなら割とすんなり見れると思う。日本の女子高生と考えるから違和感があるだけで。つまり言うほど変な事をしてるわけでもないんですよ。細田監督は多分、大真面目なんだと思います(それがちょっとズレているだけで)。

本作は、批評眼的に映画を見る癖がついていると、受け入れがたい部分があるとは思う。とは言え、脚本の粗が目立つというだけで一蹴してしまうには惜しい映画であり、「U」における甘美な楽曲空間の中毒性と、淡白なまでのすずの日常のとりとめのなさ・・そのギャップこそが本作の魅力だと思う。その意味で「美女と野獣」成分はおまけだと思って良いです。そっちにフォーカスしても内容スカスカなので。

P.S 2回目観たので少し文章直しました。それにしても幾田りらさん巧すぎますよね。

猫シャチ
猫シャチさんのコメント
2021年7月24日

>吉田さん

そうなんですよ。他の方が辛口評が多かったので、私自身はバランスを取って5点になおしました。あと初見の時ってお話の先が気になったり、伏線の回収を気にしたりで、目の前で素晴らしい映像が見えてても、脚本やキャラの行動原理が気に入らないと、大きく減点しやすいんですよ。2回目ってそのあたりはもう分かってるので、安心してカット毎の演出や作画を評価できるというか。それでああこれはやっぱり良いものだと思いました。音響はこだわって欲しいです!ただ夏映画ラッシュなので、劇場側の箱の割り当てがなかなかえぐいです・・音響のいい箱が当てられてる時に吉田さんのご都合があうといいですね!

猫シャチ
吉田さんのコメント
2021年7月24日

レビューお疲れ様です!
ネットでは賛否両論分かれた意見が出ていたので、今回はDVD出るのを待とうかと思っていました。
ですが、シャチ先生の評価が星4.5だと思っていたら星が5になっている?
もともと星5で見逃したのかと思ったのですが、改めてレビューを見てみると2回目を観たとのコメント!
脚本に関しては満点には及ばないながらも、音楽や演出がそれを補って余りあるからこその星5評価!
シャチ先生を2回目も観たいと思わせる魅力がこの映画にはあるはず!
そうなると音響の良い劇場で見ないと損をするような気がしてきたので、来週あたり観に行ってきます笑

吉田