「最高と最低の共存」竜とそばかすの姫 XIAN666さんの映画レビュー(感想・評価)
最高と最低の共存
今までの細田守監督作品のどれをも上回る映像美。
もはやこれが細田守監督の描きたかった映像の完成形で、次は無いんじゃないかと思うほどに洗練されています。
そして音楽も。
すず/Belleこと中村佳穂さんの歌声はもちろん、楽曲のサウンド、歌詞共に非常に素晴らしかったです。
ただ、この作品の良い所はそれだけでした。
問題だったのは、改善されなかった低過ぎる脚本力です。
細田守監督が自身で脚本を書くようになってからの作品はただただ酷い。
そんな印象でしたから、今作品を1800円払って見に行くことを正直迷っていました。
しかしここ何ヶ月かの間、他の映画を見る際最初に流れるCMで何度も何度もあの美しい映像と音楽を観ていたので無視出来ず1800円払って鑑賞したわけです。
結果、率直な感想としては、やはり奥寺佐渡子さんに...とまでは言わずともしっかりした脚本家さんにお願いするべきだと思います。
今回も例に漏れず最低の脚本でした。
圧巻の映像美と音楽では誤魔化しきれないほど。
細田守監督の脚本が具体的にどうダメだと思うのか、いくつか吐き出したいと思います。
まず1つ目。
意味のないキャラクターや、もはや要らないとまで言えるキャラクターが可哀想。
あたかも何かの伏線ですよ!と言わんばかりの雰囲気を出しながら、結局何も無い。
それ故にせっかくのキャラクターたちが意味を持たず、物語を散らかしてしまっています。
今作でいえば、例えばペギースー。
最初に登場したときは、ペギースーのオリジンはルカちゃんなんじゃないかと思いました。
現実でもUでも人気者、しかし現実では謙虚でもUでは匿名性をいい事に傲慢な面を見せている。
そんな中Belleに人気を奪われ、嫉妬故に...
的な展開なのかな?と思ったのですがいつのまにか退場。
デザインもBelleと対になるような感じで、あんなにも意味ありげなキャラクターなのに何もなし。
そんなんで終盤ですずを応援する時フィーチャーされても感動しません。
他にも、忍くん。
この子が最も低い脚本力の犠牲者だと思います。
だれがどうみてもこの子が竜であるべきでしょうが!
と、思うのは私だけですかね。
ただのお節介イケメンだったなんて酷いです。
「竜は誰だ?」という少々ミステリー的なテーマからみるとこの子が竜であると言うのはあまりにも判り易過ぎるかもしれませんが、これは名探偵コナンではないでしょう?
犯人探しがテーマのミステリー映画ではないのですから、むしろストレートに忍くん=竜のほうが素敵だったと思います。
キスもできるし。
逆にミスリードのつもりだったとしてもお粗末過ぎます。
カミシンとルカちゃんはなんだったんですか?
あの二人がくっついたことで何かありました?
ただあの改札口でのラブコメ(笑)シーンがやりたかっただけのように思えます。
いなくても良かったと言われるのが容易に想像できる、可哀想です。
合唱団のお姉さま方も、なんならお父さんもあんなに重い雰囲気を背負わせず賑やかしに徹するキャラクターだった方が作品としてスッキリしていたと思います。
ダメなところ2つ目は、伏線のお粗末さ。
物語中盤あたりにさしかかるところまで来て、どうやらルカちゃんは特にU側には関係して来ないっぽいな...と思い始めたころ。
竜の正体探しのシーンで映った父子家庭の家族。
全く喋らなかった黒髪に黒服の少年(恵くん)に嫌な予感がしました。
この子、竜っぽい雰囲気があるけどまさかホントに竜だったりしないよね。
もしそうならもう中盤位のはずなのに遅すぎるし伏線としては薄すぎる。
だいぶキャラクターも出揃った時間帯なのに、ここから正体が分かってこの子が出てきてももうキャラクターの背景を描ききれなくてお前誰だよってなるだろ...と。
しかし嫌な予感は的中。
は?ふざけんな。
いくらなんでもお粗末過ぎるでしょう。
案の定、恵くん/竜には感情移入しづらくなってしまいました。
せめてあの兄弟がDVを受けてるシーンがもっと前半や中盤に何度かあれば良かったのですが...。
あと、恵くんが竜のオリジンだと気づくシーンではプチ推理?ひらめき?のような物がすずの脳内で展開されますが、「あの時の子供みたいな反応!」って...。
おでこにキスしようとしたように見えましたが、別に竜の精神状態なら大人でも子供でもああいう反応になるでしょ...。
3つめは、これが全てと言えるのですが、語りたいテーマが多すぎて深堀りしきれずに散らかってしまっているということです。
恋を描きたいのか、家族愛を描きたいのか、子供達が自分自身の力で成長するのを描きたいのか、はたまたSNSの恐ろしさや美しさを描きたいのか。
ひとつかふたつに絞るべきでは?
全部やろうとするせいで全部出来なくなってしまっていると感じます。
忍くんとの恋は?
お父さんとの蟠りはあんなので解消できたことになるの?
ワンコの片足は?(笑)
物語全体にそこはかとなく流れるミステリー的なテーマもガバガバでした。
恵くん達の居場所を特定するシーンでは、コナンくんもびっくりなガバガバ推理と超技術。
わおすごい。
1番は、恵くん達とDV父さんは?
保護もされてないようだし、戦う?立ち向かう?とかって誓っただけで解決してないですよね。
DVって本当に難しい問題ですよ。
そもそも恵は充分戦っていました。
極端では無くDVとは子供にとっては、耐えるか、逃げるか、殺すか、です。
恵は逃げないどころか、弟を護って、その上父親には手を出すこともしなかった。
充分すぎる程戦っているでしょう。
それなのに解決への具体案を示す訳でもなく改めて決意させるだけ...
せっかく大好きだと伝えた相手のすず/Belleは田舎に帰って他の男と恋の予感だなんて、随分酷い終わり方だと思います。
とまあ脚本のダメなところを上げ始めるとこのようにキリがなく、疲れたので終わりにします。
しかし今作はそれを補って余りある程の映像美と音楽でした。
是非劇場で見ることをおすすめします。
あの映像美と音楽は劇場のスクリーンと音響で味わうべきだと思います!!!
Belle可愛い!