劇場公開日 2021年7月16日

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「デジタル版 『美女と野獣』」竜とそばかすの姫 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5デジタル版 『美女と野獣』

2021年7月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

細田守監督が得意とする、デジタルのバーチャル・ワールドの世界観を、美しい映像美と少女と少年の逞しく成長していく姿を描いた作品。そして、ひと夏のシーズン設定というのも、細田監督らしいところ。

最初の掴みとしては、『サマー・ウォーズ』の『OZ』の時と同様に、バーチャル・ワールド・アプリの『U』とアバターの『アズ』の説明を、美しいデジタル・アートで紹介。デジタル空間の象徴としてクジラを使うのも、細田作品の拘りを感じる。また、『サマー・ウォーズ』から12年の年月が流れ、ガラ携がスマホに替わり、デジタル・アートの世界も、随分と広がりを見せていたと感じた。

ストーリーとしては、母を亡くしてトラウマを抱えていた主人公・すずが、一念発起し、バーチャルの世界に飛び込み、トップシンガーへと上り詰め、そこに現れた粗暴な『竜』の心に寄り添い、よき理解者となって助けていくお話。

よくあるプリンセス物語と違い、王子様が姫を助けるのではなく、姫自身が粗暴な竜と対峙し、心通わせていくのは、ディズニーの『美女と野獣』のベルを思い起こさせる。細田監督自身も『美女と野獣』のベルのような強い女性が、イメージにはあったようだが、すずのアズネームも、『BELLE』というのも、強いオマージュを感じさせる。竜の城でダンスするシーンは、正に、『美女と野獣』のあの名シーンそっくりであると感じた。

主人公のすずであり、BELLE役の中村佳穂さんは、初の声優を務めたようだが、細田監督自ら抜擢した逸材だけあり、本当に素晴らしい歌声であり、声優としても、細田作品の主人公には、ピッタリ。圧倒的な歌唱力のBELLEと素の女子高校生すずとしての台詞の使い分けができていて、アニメのシーンと声が一致し、適役だと感じた。

また、エンドロールを観て、役所広司、成田凌、染谷将太、森山良子、清水ミチコ、玉木ティナ、坂本冬美、岩崎良美等、思ってもみなかった俳優が、声優を務めていたのも驚かされた。

但し、それほど★が伸びなかったのは、やはりラストシーン。バーチャルの世界では、とても盛り上がり、BELLEからすずへの存在意義を強く訴え、逞しく成長したすずの姿に心を掴まれたのに対して、現実世界での回収劇は、あまりに短絡的で、「エッ、それで解決?」というところが、物足りなさを感じた。もう少し、最後の竜とすずとの場面での、感動的な演出が欲しかった。

bunmei21