「新しいものを生み出すのがクリエイターなはず。」竜とそばかすの姫 えるまーさんの映画レビュー(感想・評価)
新しいものを生み出すのがクリエイターなはず。
年々アニメーション技術が上がってきて、より『映像美』に着目する傾向がある。その点本作の映像と演出に関しては素晴らしいものを感じる。しかし、細田監督特有といえばそれまでだが、少しオーバーなリアクションで見せたり、大所帯にしてクライマックスを壮大にスケールアップしたりする傾向について、過去作品の焼き回しにしか感じられない。特にサマーウォーズを意識させたような導入部やクライマックスについて、それは僕たち観る側が求めているものを寄せて作っているという印象を抱いてしまう。実際はその逆で、新しいものを生み出してこそのクリエイターなのではないだろうか。今更過去作の引用など無意味と言える。他にも時をかける少女を象徴したような背景があるがそれだけではない。某ディズニー映画を思わせる演出、シナリオについても同様で細田監督の新しい部分が本当に少ない。おそらく歌を生かした演出くらいなものだろう。また、サマーウォーズでは陣内家の特性が存分に活かされていたゆえに、どれだけ大所帯にしようとも一体感があった。本作ではまるでそれがない。叔母さま連中に、クラスメイトの男女カップルも特段必要だったかというとそうではないはず。いてもいなくても変わらないならいない方が良い。シナリオの鉄則だと思う。他にも主人公が人前で歌うことが苦手だということ、あまりに説明不足のまま進み、展開と同時に情報が提供されるため、話運びが理解しにくい点があると言える。ただ、皆隠して抱えている悩み事や不安はあるといった1つの主題に対しては十分に役目を果たしていて、全体としては首尾一貫している面はあると思う。周りの方の意見を拝見してみても、『?』が浮かぶような感覚があるということだが、最も分かりやすいところで、虐待を受けている兄弟がいて、なぜその兄弟は家を飛び出していたのだろうか。話の展開としては仕方ないのかもしれないが、過剰に息子を縛り付ける父親が全国ネットで醜態を晒したのち、息子を部屋から、ましてや家から逃すなどあり得るだろうか。この作品のポテンシャルは歴代のアニメーション映画の中でもトップクラスであることは間違いない。作品の方向性や内容、主題も大いにタイムリーなはずだ。ただ、やはり100点に限りなく近い映画は映像や声優、俳優の演技の前に土台となるシナリオが如何に大切であるかということを改めて感じさせてくれる。
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