「大人になっても憧れる野原しんのすけというヒーロー」映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 はりぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になっても憧れる野原しんのすけというヒーロー
本作はもともと2021年4月23日の公開予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、7月30日に公開延期となった。これによりハイレグ魔王以来23年ぶりの夏休み期間の公開となった。
僕自身はこの偶然は逆にこの映画にとって非常に良いことだと思っている。これまでのクレしん映画にありそうでなかった学園モノが夏休みでさらにコロナの影響により、学校が持つ社会的意義が問われる中、そこに真っ向から取り組んだファミリー映画は本作が唯一無二では無いだろうか。
本作の脚本を手掛けたうえのきみこ氏はクレしん映画としては5作目の脚本執筆である。氏の作品で特に好きなのは「オラの引越し物語」で、異国の地で奮闘する野原一家を見事に描いているが、その作品の中で、特に目を引いたシーンはしんちゃんと風間くんの別れのシーンだ。夕日の中走る電車の窓から、追いかけてくる風間くんと涙ながらに別れを叫ぶシーンは込み上げてくるものがあった。
そんなうえの氏がしんちゃんと風間くんを始めとするかすかべ防衛隊の友達との友情を軸にした学園モノを手掛ける。期待せずにはいられない。
さて、実際に鑑賞した結果どうだったかというと、うえの氏をはじめ、この映画のスタッフはまさに期待以上のものを見させてくれた。
特にかすかべ防衛隊の面々の描写は芸が細かく、ついさっきまであんなに走るのを嫌がっていたしんちゃんが(それが元になって風間くんと揉めるが)、風間くんの叫び声が聞こえた時は誰よりも早く階段を駆け上がったり、なんの証拠もないのにマサオ君が犯人候補に挙げられていたり、ネタ的な要素がそのまま登場人物たちの信頼関係を表す描写になっているのがさすがクレヨンしんちゃんだと思う。
そして物語の終盤、執拗に叫ばれる青春というキーワード。思い返せば、学校生活で学ぶことなど、ほとんどは社会に出てからなんの役にも立たない。あれだけ英単語を覚えてもほとんど忘れているし、あれだけ部活に打ち込んでも、運動はほとんどしなくなった。仲の良かった友人とは疎遠になったし、住む場所が変わった人も多いはず。
だけどそれが無意味だったかというとそうは思わない。好きな人もいたし、嫌いな人もいた、つらい思いもしたし、楽しい思いもした。コロナや他の社会的な要因のせいでそういう経験を積む場所がどんどんなくなっている現状にはとても寂しく感じる。
僕も一人の大人として、これからも子供たちが無駄を大いに楽しむ、青春を謳歌するだけの余裕を提供してあげていきたいとおもいます。