劇場公開日 2021年4月9日

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「“普通に優秀”が挫折する不思議社会」BLUE ブルー シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0“普通に優秀”が挫折する不思議社会

2021年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

最近邦画に多いボクシング映画ですが、これもボクシング映画として異色でしたが良かったです。
何が異色で何処が良かったのかって話ですが、この物語の奥にあるものがボクシングだけに留まらず、人間社会の全てに通じるものが見えるから良いのですよ。
今回はそれを考察して行きたいと思います。

まずは、主人公瓜田のプロボクサーとしての存在を、全ての一般人と重ねて合わせて考えると、人間社会の色々な興味深い事が浮かび上がってきました。
ボクシングが大好きで、周りからも好かているにも関わらず、それでも試合に勝てず結果を残せないボクサー。勿論プロボクサーになれたのだから、当たり前だけど一般人よりも遥かにボクシングは上手く強いはず。それでもその世界では結果が出ないと認められない。というか、その世界で本当に認められるのはチャンピョンになったごく僅かな一握りだけしかいないという事を、みんな忘れてしまっている。
で、スポーツだけではなく勉強でも芸術関連でも全ての事に対して、例えば子供の時に上手とか凄いとか言われ、クラスで一番だったけど、全校だともっと凄い子がいて、校内で一番だったけど市内や県内だともっともっと凄い子がいて、いつの間にやら一般人より上手くても挫折を味わってしまうというケースはよく聞く話です。それがアマからプロへ、国内から世界と舞台が大きくなる度に手の届かないレベルになってしまい、全く評価対象にもならない扱いになってしまう。
しかし、それはその世界の99パーセント以上の人がそうであって、トップになれるのは1パーセント以下なんですよ。繰り返しますが、その99パーセント以上のトップレベルではない人でも一般レベルだと凄いという評価にはならず、むしろ社会はそれを落ちこぼれという評価を下す傾向にあります。勝者・勝ち組しか評価しないという論理が社会に当たり前の様に横たわっている不思議をこの作品から感じられました。

でも実は、社会はその“普通に優秀”で成り立っているのですよ。それをどうしてそんなに下に見たり、卑下するのか私には分かりませんし、そういう社会は根本的に間違っているのですが、誰か(社会)が人間心理をコントロールしてその様に仕向けているのでしょうね。
そういう意味で、男はやはりダメですね。卑下したり流されたりの多くは男であって、本作の唯一の女性である千佳の価値観のフラットさは女性特有のものの様な気がします。
本作では、そういう“普通に優秀”な人への賛歌となっていたので、間違った価値観を植え付けられた多くの人が目を覚ます為にも観て欲しい作品でした。

シューテツ