「Fukaseの演技力に驚く。本当に俳優デビュー作か?」キャラクター といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
Fukaseの演技力に驚く。本当に俳優デビュー作か?
映画の予告編を観て面白そうだったのと、個人的に大好きな俳優である菅田将暉主演映画なので鑑賞しました。SEKAI NO OWARIのボーカルであるFukaseさんが俳優デビューする映画ということで、そこも気になっていました。監督の永井聡さんの他作品は『帝一の國』のみ鑑賞済みで、こちらもかなりクオリティの高い面白い映画だったので本作も期待していました。
結論。これは凄い映画でした。
ストーリーの面白さもさることながら、何より驚かされたのはFukaseさんの演技力の高さ。予告編で観ることができますが、作中での第一声から「猟奇殺人犯っぽさ」が滲み出ていました。車が壊れて山中を歩くFukaseさん演じる両角が、家族連れのセダンを運転する優しそうなお父さんから「大丈夫ですか?」と声を掛けられ「大丈夫じゃないです」と返答するだけのたった一言で、鳥肌が立つくらい感動しました。その一言だけで「Fukaseさんの演技は問題ないな」と思わせるだけの凄みがありました。
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アシスタントをしながら漫画家を目指している山城(菅田将暉)は、絵は上手いものの魅力的なキャラクターを作ることが苦手で、漫画家として芽が出ずにいた。そんな中、漫画の資料として一軒家のスケッチをしている時に、その家の家族が惨殺されている現場を発見してしまう。殺人犯である両角(Fukase)の顔を見てしまった山城だったが、警察にはそのことは伝えず、両角をモデルにした殺人犯が登場するサスペンス漫画「34(さんじゅうし)」を描き、それが漫画雑誌に連載されて人気漫画家として有名になっていくのだが……。
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何よりも、Fukaseさんの演技力の高さに驚いた。本業はミュージシャンなのにこんなに演技が上手いんですね。個人的には『ヒメアノ~ル』の猟奇殺人犯を演じたV6の森田剛さんと肩を並べるくらいの「猟奇殺人犯っぽさ」でした。
特に、Fukaseさん演じる両角の最初の台詞「大丈夫じゃないです」から「狭くなっちゃってごめんね」までの一連の流れの素晴らしさ。これはYouTubeで公式動画が上っているので観てみていただきたいんですが、
「大丈夫じゃないです」の一言で「なんかヤバい人だ」と思わせ、
「乗せてもらっていいですか」という台詞を食い気味に言うことで違和感を生じさせ、
全く遠慮の感じられない力強くドアを開ける演技で不快感を抱かせ、
全く心の籠ってない「狭くなっちゃってごめんね」という台詞で恐怖を感じます。
この一連の流れが本当に最高です。この演技が監督の指導によるものなのかFukaseさんの役作りによるものなのかは分かりませんが、猟奇殺人犯・両角の魅力と恐怖を見せつける素晴らしいシーンだったことは間違いありません。掴みはバッチリ。
Fukaseさん以外の役者陣も実力派を揃えていることもあって全く違和感なく観ることができました。主演の菅田将暉の演技は言わずもがな、高畑充希さんの新妻っぽさも素晴らしかったですし、小栗旬さんも『罪の声』で見せたような飄々とした切れ者キャラが実に素晴らしかったですね。
また、ストーリーも素晴らしかった。本作は長崎尚志さんのオリジナル脚本による映画ということもあってか、映画の尺に綺麗に収まった纏まりの良い作品になっていました。サイコスリラー映画として私が重点を置いている「魅力的な殺人鬼」もいるし、ラストにその殺人鬼とのバトルもあって私の大好物の展開です。
ただ、不満点が全くないわけではないんです。ほんの些細な点なんですが、2点ほど不満に感じた点があります。
一つ目は、ラストシーンの両角とのバトルで中村獅童演じる刑事が山城に発砲したことです。
山城と両角の因縁の対決に第三者である刑事が介入してくることが興ざめですし、山城が両角を殺害するのを防ぐためとはいえ銃で撃つのは流石にやり過ぎです。山城が死んだらどうするつもりだったんでしょうか。山城が両角の襲撃に備えて防刃ベストを着用する描写があるので「銃で撃っても大丈夫だと確信して山城を撃ったんだ」という反論があるかもしれませんが、私は「防刃ベストには銃弾を防ぐ機能は無い」ってことはしっかりお伝えしたいですね。
二つ目は、両角の出自に関する設定です。
両角は「四人家族が幸せの一単位とする宗教を信仰する人々の集落にいた戸籍の無い男」という設定になっていますが、この設定必要だったんでしょうか?
この手のサイコスリラー映画は殺人犯の正体が掘り下げられていくほどに殺人犯の魅力が損なわれていくように感じてしまいます。『ダークナイト』でジョーカーのカリスマ的な魅力に触れてから『ジョーカー』で彼の出自を見せられた時にも「なんだか興ざめ」って感じがあったんですが、本作ではそれが更に強いんですよね。『ダークナイト』『ジョーカー』は監督も違うし俳優も違うし公開時期が離れていることもあって「単体として面白い映画」として別々に観ることができましたが、本作では前半に魅力的な連続殺人犯の両角の魅力に胸打たれた後に「実はこんなに可哀想な男だったんだよ」と説明されているような感じ。両角の身の上話は全カットで良いです。入れる必要性があったんでしょうか。例えば『ヒッチャー』のジョン・ライダーみたいに最後まで「正体不明の男」として通すことはできなかったんですかね。本作もできれば両角の正体が謎のまま終わって、2年後くらいに両角の過去を描いたスピンオフ映画を公開した方が良かった気がします。
まぁ、細かな不満点はありつつも、サイコスリラー映画としては実にクオリティが高くてエンタメとして楽しめる作品になっていましたので、オススメです!!