劇場公開日 2021年10月1日

  • 予告編を見る

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということのレビュー・感想・評価

全111件中、1~20件目を表示

3.5それでも、人生は続く(取り戻す、を手放すとき)

2021年10月16日
iPhoneアプリから投稿

(話は飛躍するが、)子育てをしていると、「変わらない」物事はなく、後戻りはもちろん、「取り戻す」ことは到底できないなとつくづく思う。これまではこうじゃなかった、こんなはずじゃなかった、と思っても、子は刻一刻と育って変化していき、親の感傷をよそに、時間はどんどん前に進んでいく。
 聴覚を失い、轟音に彩られた生活を突然絶たれたドラマーの主人公、ルーベン。激しいいらだちをバンド仲間の恋人・ルーにぶつけてしまうが、彼女の必死の勧めに従い、しぶしぶ自助グループでの共同生活に転じる。徐々に穏やかな生活に馴染んでいったかに見えたものの、恋人との音楽の日々を諦めきれない、取り戻したい彼は、思い切った行動に出る。
 寄り添い、支え合う生活は理想のはずなのに、はまりきれないのはなぜなのか。心穏やかな生活には、目立った変化は降って湧いてこないない。目指すことややりがいは、自分で見出さなければならないのだ。子どもたちに音楽を教える姿が帰着かと思えたが、ルーベンの視線は、遥か遠く、輪の外に注がれ続けたままだった。
 ツアーバスを売り払い、コミュニティでの繋がりを捨ててインプラント手術を受け、ノイズに耐えながら恋人の家を訪ねるルーベン。まるで、声と引き換えに足を得た人魚姫のように痛々しい。そんな彼を迎え入れる、ルーの父を演じたマチュー・マリアックが、近すぎず遠すぎず、絶妙の立ち位置だった。ルーベンを演じたリズ・アーメッドと同じく、眼力が強い俳優さん。鬼気迫る・狂気が滲む役柄が多く、主人公とぶつかり合うのかと思いきや、今回は徹底して「色々あったけれど、何とかここに行き着いた」娘の父を演じていて、ますます好きになった。(余談だが、ルーベンに茹で卵を振る舞うところが、観ているときは少しピンとこなかった。後でざっと調べてみた限りでは、半熟茹で卵を、カリカリにトーストしたバゲットにつけて食べるのは、フランスではごく日常の食事(夕食)らしい。娘の恋人を、家族のように気負いなくもてなした、ということだろう。卵の殻をナイフで割り、パンをざくざく噛む音もごちそうのうち、というところも印象的だった。)また、父と娘の歌が、哀愁とも不協和音ともつかないメロディと歌詞だったのも良かった。ルーの家でのルーベンの音世界は、何と悲しく、騒がしいものだったのか。
 心待ちにしてきたはずの再会は、心の穴を埋めてくれない。ルーベンが、新たに踏み出した世界とは… 。時間を引き戻し、失ったものを取り戻すことを「手放した」重み。新たな世界の美しさと厳しさ。今も、余韻が耳に残る。

(付記というか、ちょっとした不満。
 本作は、聴覚を失うルーベンの音世界を追体験させるべく、音作りに細やかな工夫がなされている。けれども、カッコ書きの字幕で音の説明が付されるのは、むしろ余計で、目にうるさい気がした。これは日本版のみなのだろうか?「静かな騒音」なんて、完全に矛盾している。せめて、「くぐもった騒音」あたりではないか。字幕を無視するのは難しいので、出来れば、カッコ書き字幕抜きで観直してみたい。)

コメントする (0件)
共感した! 1件)
cma

5.0喪失と絶望の先に見えるもの

2021年4月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

 聴力を失ったメタルバンドのドラマーがたどる運命を描くこの作品は、様々な音に彩られている。
 冒頭のライブシーンの激しい音の洪水の後は、コーヒーのドリップされる音や開け放たれたドアがかすかにきしむ音、遠く響く鳥の鳴き声、人混みの柔らかなざわめき。遠景のような音がそこかしこに散りばめられる。
 そしてこれらの聞き慣れた音と対照的で印象深いのは、主人公のルーベンが聴力を失った後に聞く「音」だ。わずかに残った聴力が拾う、曇って細部の潰れた音。張り付いて離れない不協和音のような耳鳴り。人工内耳の金属をこするような音。
 本来昨年8月に全米公開の予定だったこの映画を、映画館で観られないことを当初残念に思ったが、ヘッドフォンをつないで鑑賞したことでその考えは変わった。これらの音達を耳元で聞くことで、ルーベンが襲われた変化をよりリアルに追体験し、彼の絶望を間近に見たような気持ちになった。
 過剰な言葉はない。音と、リズ・アーメッドの細やかな表情が、主人公の感情の流れを雄弁に語る。

 パートナーのルーは、当事者のみの参加が条件の自助施設にルーベンを行かせるため、荒れて追いすがる彼を振り切って彼の元を離れた。二人の出会いと同時期にルーベンがドラッグをやめたこと以外、彼らが共に過ごした過去の説明はない。だが別れる間際のやり取りに、繊細な二人が出会ってから4年間、どのように身を寄せ合って生きてきたかが滲む。
「あなたは自分を傷つけ、私も傷つけてる。私も自分を傷つける。施設に行くと言ってほしい。じゃないと全部ムダになる」
 これほど大きな困難を、無謀に受けて立つと二人とも壊れてしまう。そうならないために寂しさを堪えて突き放すルーと、目の前の孤独に怯え助けを求めるルーベンの姿がひたすら切ない。

 自助グループに参加したルーベンが施設に馴染むまでの描写は比較的淡々と進む。元いた社会と接触を絶たれる厳しさはあるものの、彼を受け入れる聾者の世界はどこか牧歌的だ。マーダー監督は、寛大な精神を保つ聾文化を表現するこの物語の構想に13年をかけたという。施設の指導者ジョーには、聾者の両親の元で育ったポール・レイシーをキャスティングしている。
 聾者であることは不幸なことではなく、身体特性に応じた文化に生きるということに過ぎない。そんな印象を受けた。
 ただ、自助グループは聾者として生きていくことを前提に、精神面でのサポートをするものだ。そこでの生活にひとまず馴染みつつも、ルーベンはあくまで手術での聴力回復に望みを繋いでいた。大切な音響機器やトレーラーを売り払って手術費用を工面する彼だが、物語の肝となるさらに厳しい試練が彼を待っていた。

 希望を失った時、生きてゆく力をどう紡ぐのか。
 ルーベンは、生活だけでなく自己表現に直結していた音を奪われた。そこには誰の悪意も過失も介在せず、恨みをぶつけるよすがさえない。
 失われたかけがえのないものが二度と戻らないという事実を、受け入れることは苦しい。諦めれば楽になるなどと、とても軽々しく言えない。
 それでも覚悟を決めて一歩を踏み出せば、その先は決して絶望のみではないと信じたい。

 そして、監督がインタビューで語ったこの映画のテーマ「目覚め」が、ラストシーンに凝縮されている。ルーベンの苦悩と彷徨の物語をたどってきた私たちも、最後に音のない世界を彼と共有し、どんな言葉より胸に迫る安らかな静寂によって目覚めを体感するのだ。

コメントする (0件)
共感した! 13件)
ニコ

4.0「ろう」という生き方

2021年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

メタルバンドの話で、ものすごく騒がしい作品なのかと思っていたら、むしろ聴覚を失ってゆくミュージシャンの物語だった。まあ、メタルバンドのドラマーが主人公なので、最初の印象が間違っているわけではないのだが。
タイトルの「サウンド・オブ・メタル」はダブルミーニングだった。メタルバンドの主人公が音を失っていくという点でメタルの音の物語でもあるが、もう一つは、聴力を取り戻すためのインプラント手術後の音を指している。インプラント手術は簡単に言うと金属を耳に埋め込むようなもので、疑似的に聴力を回復させるためのもの。この音が大変に不快な金属音なのだ。映画は主人公が手術を受けた後の音を観客にも体感させる。世界の音の何もかもが金属の反響音として聞こえてくる。本作は、そんな描写も含めて、「ろう」とは治すべき病気や障害ではなく一つの生き方の実践であると描いている。ろう者のコミュニティが牧歌的な心地よいコミュニティとして描かれているのもその表れだ。音が非常に重要な作品なので、本当は映画館で観たい作品である。

コメントする (0件)
共感した! 14件)
杉本穂高

4.0Deafness, Strangely, A Theme Seldom Explored in Cinema

2021年1月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

It's hard to approach deafness or blindness in the way paralysis was explored in The Diving Bell and Butterfly. How can a film sell if there is no sight or sound to it? Sound of Metal goes in an out of the lead character's head, and to a new realm when cyborg technology takes hold. The film is touching, seeing an authentically portrayed crust punk schooled on community. Also a sad film. Must see!

コメントする (0件)
共感した! 2件)
Dan Knighton

4.0苦悩の先に答えなんてなくていい。

2020年12月31日
PCから投稿
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 13件)
村山章

4.0すべてを肯定して静寂に身を置くことで得られる平穏

2020年12月31日
PCから投稿

怖い

幸せ

ある日突然、耳がほとんど聞こえなくなる。それも、恋人と一緒にトレーラーハウスに住まい、行く先々のライブハウスでドラマを叩き続けるドラマーがである。当然、彼の絶望感は半端ない。唯一の治療は脳に音を音として感知するチップを埋め込むことなのだが、如何せん治療代が高額だ。そんな八方塞がりのドラマーが、友達の紹介で入所するろう者の支援コミュニティで、仲間たちと手話を介して対話し始める。だが果たして、そこは主人公にとって終の住処たり得るのかどうか?ことはそう簡単ではないことを本人も観客も知っている。しかし、明確な手がかりがある。焦り、もがき苦しむドラマーに対して、コミュニティの創設者がこう語りかけるのだ。「耳が聞こえないことはハンデではない。治すものではないのだ」と。そして、「静寂こそ平穏が得られる場所なのだ」と。音のある世界からない世界へ、豊かさから貧しさへ、勝者から敗者へ。人生は様々な試練(騒音)と無縁ではいられないけれど、もしもそれを肯定できたなら、人は救済されるに違いない。激しいドラムプレーで始まる物語が、無音の世界へとシフトしていく意外性のある構成、主人公の聴力と第三者(観客も)の聴力を区別した録音演出、主演のリズ・アーメッドの痛々しいほどの肉体表現と追い詰められた演技。見所はふんだんにあるが、白眉はコミュニティの創設者を演じるポール・レイシーの、まるで神のような佇まいだ。レイシー自身も役柄と同じくベトナム帰還兵で、ろう者の両親を持つ身であることを考えると、さらにその演技は説得力を持つ。アーメッドとレイシーは共に来年のオスカー候補入りが確実視されている。

コメントする (0件)
共感した! 8件)
清藤秀人

4.0聞こえるいうこと

2025年4月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

幸せ

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 0件)
ゆい

5.0終わりの心得①

2025年4月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

メタリカみたいなメタルバンドのドラマーにスポットを当てた音楽映画を想像し、なんとなく今まで見なかった作品。ようやく見たら、全然違ってました。私の『終活の心得』として記憶に残さねばいけない。

恋人の女性ギターボーカルと二人でメタルバンドをやっているドラマーの主人公が、突発性難聴で音が声が聞こえなくなってしまいます。長年バンドで生活してるんだから、さあどうすんな?というお話。

私は今年50歳になる。人生100年時代ともなれば、折り返しになります。いやそもそも、100年どころか明日、目が覚めない可能性もある。なんも保証ありません。誰しも歳を重ねることにより、目が耳が身体が悪くなる。必ず衰えますわ。おまけに私は色の見分けも弱い。学生の頃、美術の先生に『絵は上手く描けてるが、なぜここをこの色で塗ったん?』と言われ、やっぱみんなと違う見え方してんやなと自覚。なんか暗い感情が湧いたが、今は上手く描けてたんならええやんけと思う。

老眼という新たなる敵が加速装置を搭載してやってきたが、眼鏡があれば本も読めるし、車やバイクの運転もしていいライセンスがあるので、今は特に困ってはいませんが、いずれは受け入れなきゃならんでしょう。

ラストシーン

もはや生活レベルや環境の違いを感じ、恋人の家を黙って去った主人公は、街のベンチに座る。サウンド・オブ・メタルというタイトルは、こういう事かと。高い金を払い手術したものの、元の状態になんか戻るわけがなく、不快な金属音ばかりが延々と彼には鳴り響くわけです。医学的な細かい事はわからないが、どうもそういうもんらしい。

後半の流れから、ネガティブな私は彼が自ら命を絶ってしまうだろうと思って見ておりましたが、補聴器を外し、無音の世界で佇む彼の表情で終わるラストは、彼がこの病気を、聞こえない世界を受け入れたんだなと思いたい。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
よしお

3.5聞こえないということ

2025年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

 ルーベンはメタル系バンドのドラマーだったが、聴力が低下してしまう。ボーカルで恋人のルーは、彼を聾唖者の支援コミュニティーにつれていき、離れて暮らすことに。そこでの暮らしに慣れていくルーベンは。
 音響効果が際立っていました。ドラムの迫力、聞こえにくくなっていくところ、手話がわからないので会話に参加できないこと、人工内耳の聞こえ方、疑似体験をしている感じでした。ネックスピーカーで鑑賞したから、よりわかりやすい。普通のスピーカーより、イヤホンなどで鑑賞するのを勧めます。そして彼が得た、静寂平穏も理解しやすい。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
sironabe

3.0退屈

2025年3月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 0件)
ガレ

3.0誰の身にも

2025年3月2日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

自分の身に同じことが起こったら、やはり動揺してしまう。ただ取り乱れて暴れたりはしないかな。
すごく評価が高いけど、自分にはそれほどでもなかった。
評価:3.2

コメントする (0件)
共感した! 0件)
bigsuke

4.5評価基準にかなり苦しんだが・・・・・

2025年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

知的

難しい

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 0件)
mark108hello

4.0音の質・・・聞こえれば、それで良いというものでは無いのが分かりました。

2024年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 15件)
琥珀糖

4.0私の感想を書くとこの映画の良さが逆に下がってしまいそうでコメントし...

2024年9月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

私の感想を書くとこの映画の良さが逆に下がってしまいそうでコメントしにくい。だから余り語らず、これは良い映画と言いたいが、Prime Videoだと何度試しても英語版だとスムーズに再生出来ない。日本語吹き替え版なら何故かスムーズ。少し残念。
脇役の俳優達も、もしかして俳優じゃない人達?も良かった。
邦題のタイトルが「聞こえないということ」では無く『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』が意味有りげ。
映画館で観れば良かったと思った作品。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
ナイン・わんわん

4.5筆舌に尽くし難い

2024年1月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

凍える暗闇から抜け出すため光に手を伸ばし

光だけを見つめ必死で手を伸ばし

凍え傷つく自分に
自分では気付かないから
それを周りの人は温めようとしてくれる

でも、光を手に入れたいから

抗い、もがき、苦しみ、何としてでも
どんな手を使ってでも光を手に入れたい

だから周りの人が温めてくれてることに
気付いているのに、向き合えない

やっとの思いで手にした光

手のひらで見た光は
自分が求めていた光とは違う色だった



後ろに戻る道はない

それでも人生は止まってくれない。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
トント

5.0耳が聞こえないこと。

Mさん
2023年11月9日
Androidアプリから投稿

市川團十郎によく似た主人公が耳が聞こえなくなる。ただ、それだけの話なのに、心に残る。主人公の苦しみやイライラが直に伝わってくる。
可能ならば見た方がいい。

コメントする 3件)
共感した! 12件)
M

4.0自尊心をブッ壊す凄まじい葛藤と静寂に心打

2023年11月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 3件)
The silk sky

4.5タイトルを見返した

2023年8月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 2件)
ティム2

4.0オスカー候補の秀作

2023年7月27日
PCから投稿

耳の聞こえなくなったドラマーの葛藤と周囲の人との協調と軋轢を、時折挟まれる無音シーンなどを駆使してキリキリ揉まれるような印象で演出していますが、一方、悲惨過剰にならないようなバランスも絶妙です。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
越後屋

3.0音響賞を取っただけあって

2023年7月12日
スマートフォンから投稿

悲しい

怖い

知的

音がすること、しないことの日は感覚。映画は音、映像共に素晴らしく、全編リアリティーが凄いので、自分がこうなったらどうするかとずっと考えさせられる。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
ブロディー署長
PR U-NEXTで本編を観る