「軍隊は構造的にいじめが起きる組織」キル・チーム 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
軍隊は構造的にいじめが起きる組織
本人がしたくないことを強要する事案は世の中に溢れている。悪いことばかりではない。飛び込み営業に行きたくない新人の営業マンを無理やり新規の会社の受付に押し出すといったことはよく行なわれているだろうし、それは新人の営業マンにとっての登竜門でもある。最初はしたくないことでも、そこを乗り越えてしまえば仕事として楽しくなったり、やりがいを持てたりするようになる。
しかし規範に反する行為を強要するのは、その行為自体が犯罪である。身近な事案で言えば、学校でのいじめがそうだ。いじめっ子にはリーダーがいる。リーダーが誰かを殴れと言えば、気が進まなくても殴らなければならない。そうしなければ次は自分がいじめられるからだ。そしてそれとそっくりな構図が世界中に蔓延している。
本作品もその例外ではない。特に軍隊という組織は特にいじめの構図が広がりやすい。国家の正義という後ろ盾があるから、正義を大義名分にすれば誰にでも難癖をつけることができる。加えて軍隊は究極のヒエラルキー組織だから上官の命令は絶対だ。上官がいじめっ子だったら部下に逃げ道はない。会社だったら辞めればいいし、学校だったら不登校になるか転校すればいいが、戦場にいる兵士はそうはいかない。軍隊という組織は構造的にいじめが起きやすい組織なのである。
それに他の組織と決定的に違うのが、軍隊は強力な武器を持っているということだ。スタンリー・キューブリック監督の映画「フルメタル・ジャケット」でも軍隊におけるいじめが扱われていて、徹底的ないじめを受けた新兵のひとりは上官を射殺したあと銃口を口にくわえてフルメタル・ジャケットの銃弾で自殺する。衝撃的なシーンだった。本作品を観て「フルメタル・ジャケット」を思い出した人もいると思う。
日本でも自衛隊内でいじめが多発していることは容易に想像できる。元自衛官がその戦闘能力を利用して交番を襲撃、拳銃を奪って人を殺す事件が複数件起きている。殺人以外でも元自衛官が起こす事件は多い。そのすべてがいじめのトラウマだとは言わないが、先程も述べたように軍隊という組織は構造的にいじめが起きやすい組織なのだ。
米軍は中東地域で反感を持たれている。そもそも2001年の9.11テロは、長期間に亘るアメリカの軍事介入に対する中東地域の人々の憎悪が凝集した事件でもある。もちろん肯定される行為ではないが、アメリカは中東地域における米軍の理不尽な介入がどれほどの怒りを生んでいるかを自覚していないフシがある。
戦場に赴任した兵士は、正義が自分たちにあると一方的に思い込み、自分たちに反抗する住民は不正義、つまり悪なのだと、単純に考える。赴任先の歴史など、必要な教育さえ受けていないのだ。本作品の軍曹の説教は、暴走族のカシラが新入りを説教するのとほぼ同じである。米軍にも暴走族にも哲学がなく、上っ面の間違った論理を振りかざす。
繰り返すが、軍隊は構造的にいじめが起きる組織である。いじめっ子の論理は虐殺の論理とほぼ同じである。軍隊は武器を持った巨大ないじめ集団なのだ。一刻も早くすべての軍隊を解体しなければならない。自衛隊も早く災害派遣隊などに組織変更して武器を取り上げたほうがいい。