劇場公開日 2021年4月16日

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「宇宙モノというより女性映画。仕事と子育ての両立、価値観のアップデートを男性に促す啓発効果も」約束の宇宙(そら) 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0宇宙モノというより女性映画。仕事と子育ての両立、価値観のアップデートを男性に促す啓発効果も

2021年4月12日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

従来の宇宙モノとは一線を画す映画だ。「インターステラ―」「ゼロ・グラビティ」「ドリーム」など、女性の宇宙飛行士や宇宙開発スタッフの苦闘や活躍を描く作品はもちろん過去にもあった。だが本作「約束の宇宙」は、エヴァ・グリーン扮するサラの宇宙ミッションにおける活躍を取り上げない。重点を置くのは、打ち上げまでのハードな訓練に必死で取り組む姿。そして、幼い娘を離婚した夫に預けて離れることを余儀なくされ、ままならない育児と仕事の両立に悩み苦しむという、働く母親、とりわけシングルマザーの大勢が経験するであろう普遍的な難題だ。

欧州宇宙機関(ESA)の協力を得て、施設から小道具に至るまですべて本物を使用したという宇宙飛行訓練の描写はリアルさに満ち、飛行士らの取り組み方や考え方も含め大いに興味をそそる。だがそれ以上に、サラと娘の不安、さびしさ、互いを想う気持ちをじっくりと尺を割いて描写している点に意表をつかれる。主眼はやはり、仕事と子育ての両立という難題に苦悩する女性の生き方なのだ。

サラが宇宙空間で華々しく活躍することを予想して肩透かしを食ったように感じたが、それも半ば無意識の先入観によるものだと気づかされた。宇宙モノに限らず、専門性の高い職業につく女性や活劇の女主人公などに、男性にも勝る派手な活躍をつい求めてしまうのは、「女性を男性化する」ことによってハリウッド映画に顕著な男性優位主義(マチスモ)のフォーマットにはめ込んできた諸作による刷り込みではないか。

本作の脚本も書いたフランス人女性監督アリス・ウィンクールは、2015年の監督作「ラスト・ボディガード」(兼共同脚本)では富豪の妻子を守る男性ボディーガードの視点でストーリーを語り、ジェンダー要素はほとんど感じさせなかった。だが、トルコの村社会の因習に翻弄される5人姉妹の運命を描くトルコ人女性監督デニズ・ガムゼ・エルギュベンのデビュー作「裸足の季節」に、共同脚本で参加したことが転機になったのだろうか。ジェンダーと社会的役割をめぐる先入観や偏見を改めようとする狙いを本作に強く感じた。

高森 郁哉