「俺も、覚え続けます!」返校 言葉が消えた日 CBさんの映画レビュー(感想・評価)
俺も、覚え続けます!
<鑑賞の前に知っておくとよい前知識>
第二次世界大戦が終わり、日本統治から脱却した台湾は、国民党政権下に入ったが、「イヌ(日本)が去って、ブタ(国民党)が来た」と人々に囁かれていた。特に、1947年の二・二八事件から1987年に戒厳令が解除されるまでの「白色テロ時代」、国民党は台湾国民に相互監視と密告を強制し、反政府勢力のあぶり出しと弾圧を徹底的に行った。
と、これだけの前知識を持って入ると、話がすんなり入ってくること、請け合いです。このシチュエーションはゲームのために空想されたものではなく、上記時代の台湾を実際に反映したものです。
台湾人が忘れてはならない負の歴史をストーリーに取り入れるという大胆な発想で大ヒットとなったホラー・ゲーム「返校」がもとです。
圧政のため学校内でも「禁書(読んではいけない本)」が当たり前な世界をおかしいと感じ、自由を求め続ける一部の先生と少数の生徒たちで秘密裏に行われる学校内の読書会。それを体制側(秘密警察)に密告したのはいったい誰か。どんな理由で密告したのか。それを謎解きしていく話。
これをホラーテイストの謎解きミステリー物として描く。ホラーは書いたようにホラーテイスト程度で自分でも耐えられるもの。ひんやりと、どうなることかと見続けるのは楽しい。
そこに描きだされるのは、残念ながら悲しい話だ。しかし、どんなことが行われてきたのかを知り、そこから抜け出そうとする動きがなぜ、どんな理由でつぶされてしまうのかを知ることは、今を生きる自分たちも、知っておくべき記憶しておくべき大切なこと。もっとも学ぶべきことは、「そうした環境下で密告しないためにはどうするか」 よりも、「こんな当たり前のことが "密告" という悲劇を生んでしまう、そんな状況を生み出したくない」 という気持ちだろう。みなが潜在的にその気持ちを持っていれば、自分の環境が "圧政" という忌むべき、きわめて不自由な状態になってしまうことを防げるのだと思う。
私たちには獣性があり、悪魔性ももっている。でも神性ももっている。
あなたは生き続けて。生きてさえいれば希望はある。生きていれば何かが起きる。誰かが生き続けて、全てを覚えておいてほしい。
夏の映画の半分くらいは、歴史からそれを思い出し学ぶ映画たちだが、本作はその中でも「エンターテインメント的で観やすく、かつ伝えてくる」いい映画だったと感じる。
「共産党のスパイ告発は、国民の義務です」
冒頭に流れるこの地域放送の声。いまはピンとこないかもしれないが、共産革命が全世界を席巻し始めた1950年前後には、戦々恐々とした民主主義国家の多くが似たような情勢にあった。いわゆる「赤狩り(Red Scare:共産主義の恐怖:共産主義者摘発公職追放活動)」に多くの民主主義国家が陥っていた。わすか70年前のことだ。戦時中日本の「(五人組という施策による)非国民狩り」等、密告により体制にあわない人たちをあぶりだす活動は、すぐにまた現れるかもしれないことを忘れないようにしよう。
「自分がこの人に政治をまかせたいと思う人に投票して選ぶ」権利をもち、「任せた人がなにを言い、なにを行ったか」を確認する権利をもつ世界が、なくなっていかないようにしたい。