「喰らい続ける男たち」孤狼の血 LEVEL2 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
喰らい続ける男たち
白石和彌監督は振り切ることに決めていた。昭和の終わりから平成の始めへと時代が動く。手打ちによって二大組織の均衡が保たれている中、服役中の荒くれ者が出所してくる。見送る看守に「世話になった」と一瞥すると、不気味な微笑みを残して迎えの車に乗り込む。
復讐の序章。穏やかな空気が流れるピアノ教室に現れた男は、容赦なく女の両目に親指をぶち込む。問答無用の粛正、ただならぬ空気の先に女の兄である看守の写真が浮かび上がる。
広島を支配した親分の血筋を継ぐ上林は、時代は変わっただとか、今はビジネスの時代だなどとほざく上層部が気に入らない。復讐と復権を果たすために、誰も信じないことで自らを奮い立たせていく。
『虎狼の血』をLEVEL2に引き上げ、前作とは異なるテンションを付加するためには、凶暴で手のつけられない男が必要だった。鬼神、上林を託されたのは鈴木亮平だ。
優等生的な役柄が多かった俳優が余計な負荷を振り払い、髪を短く刈り込み、まるで仁王のような佇まいで他人を見下ろす。鍛えられた身体に刻まれた背中の刺青は入所によって途中で止まったまま。その空白を埋めるかのように男は性急に動く。鈴木は「最も凶暴な男」のひとりとして東映ヤクザ映画史に刻まれる上林を激烈に演じきる。
猟奇殺人事件が発端となり、捜査本部に招集された日岡(松坂桃李)と復讐鬼と化した上林が交錯していく。前作に続いて登場する毒気の強いキャラクターたちも健在だ。
そしてもうひとつ。この映画を観て俄然食欲がわいた。村上虹郎が演じる幸太はことあるごとに姉の元を訪れ「腹が減った、何か食わせてくれ」と焼きそばを喰らう。新たにコンビを組む瀬島(中村梅雀)は「相棒なんだからメシを食おう」と誘う。渋々応じた日岡の前にはビールと家庭料理が並び、焼酎をしこたま飲んだ後には広島名物「たこ飯」が振る舞われる。
活力は喰らうことで生まれることを監督は知っている。この作品は食欲をかき立てる力を持つ。