「キャスティングの意外さに度肝を抜かれた」マスカレード・ナイト ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
キャスティングの意外さに度肝を抜かれた
前作は公開時に拝見、原作は未見。
前作、正直全く観るつもりがなかったのに、空き時間にたまたま上映されていたので観に行ったら、これまた面白くて驚いたのを覚えている。
公開当時の2019年は『マスカレード・ホテル』はじめ、『翔んで埼玉』『コンフィデンスマンJP』『マチネの終わりに』等、フジテレビ制作の映画がどれも素晴らしい作品かつ面白くて、私の中でなんとなく抱いていたテレビ局制作の超大作映画への食わず嫌い感が完全に払拭された。
今回もその続編だから面白いと思って観に行って、本当に面白かった…!
壮麗なロビーのセットに加え、今回は文字通り"マスカレード・ナイト"を実写化するために、あれだけの誂えや衣装、メイクを揃えられる予算と豪華さがまず凄い。
仮面舞踏会の怪しさと煌びやかさを表した音楽も好きだった。タンゴ好きとしては、パーティーシーンの途中で小松亮太さんの楽器が使われていて嬉しい。(バンドネオンの演奏もご本人?)
今回はより「人を疑う警察のルール」と「お客様を信じるホテルマンのルール」のぶつかり合いと、お互いの仕事の本質を理解し折衝しながら解決に向かう様を強く感じ、"仕事"を扱う映画としてとてもよくできていると感じた。
何より驚いたのはキャスティング。
少ししか出番のないキャストも全員漏れなく華がありつつ、犯人ではないか?と思わせる怪しさのバランスが絶妙。本当に豪華すぎる。
また、犯人役が前作の松さんに続き、まさかの麻生さんが来るか!とびっくりして心臓が止まりそうだった。
私はお二人とも昔から大ファンなので、大好きな役者さんが両方犯人役か〜と思うと、偶然とは言え嬉しいような怖いような不思議な気持ちでいっぱいになっている。
そもそも例えば、松さんは感情を排したような台詞回しや不可解なキャラクターのお芝居を度々拝見してきたように思うので、前作で犯人と分かった瞬間からのガラッと雰囲気の変わる様は、「これぞ観たかった黒松様!」と言った気持ちになった。
一方で、麻生さんは近年ではあまりそういった役柄を観た気がせず、『dele』の弁護士役や『MIU404』の機動捜査隊隊長のような役柄すら、初めはかなりイメージができなくて予想外の感覚だった。バラエティで拝見するご本人のキャラクターも、明るく天然で面白い方というイメージが強い。
加えて、今回は役柄のキャラクターに男性性と女性性両方が求められるかなり稀有な設定。難役でしかないし、中性性を求めるならそれこそ私なら元宝塚の男役の方をキャスティングしただろうなと思う。大ファンではあるが、まさか彼女が犯人を演じるとは少しも思わなかった。
映画を観て、その類稀なる美貌や怪しさ、また瞳から新田も正体を暴いたように、その印象的なまなざしが起用の理由だったことは疑いようがない。
(仮装の装いもそこまで男性性が強くなく、絶妙な「男装の麗人」のような雰囲気に仕上げていて良いなと思った)
窓からプロジェクション・マッピングを観て濡れた瞳がクロースアップされるシーン、犯行動機を全て語った後に一筋流れる涙。その美しさと哀しさだけで、十分に観る価値があった。それこそが、嘘にまみれた仲根緑のたった一つの本当だったところも、物語として素晴らしかった。
(ただ惜しいのは、視線一つで犯人って気づけるか???という結構非現実的なところと、森沢のバックボーンと動機をもう少し掘り下げてもよかったと思う。尺の問題か。あと被害者のお腹の子は誰の子なんだ…)
台詞の話し方も、全編にわたって落ち着いて感情や真意を抑えたような話し方が多かった分、声の響きが本当に良いな…と聞いていたし、最後に感情を爆発させるところが際立っていて、演出も含めて良かったと思う。
また、最近のご活躍ぶりを拝見していると、麻生さんは元々映画からデビューされて、映画に沢山出ている役者さんだということを忘れていた。しかし、スクリーンでの姿や今回の役柄は、まさに当時のミステリアスな映画俳優イメージの復活感があって、ファンとしてはその点も興味深く、嬉しく拝見していた。
他の役者さんやスタッフさんも含めた普遍的な話として、長いキャリアをお持ちで、自分も長くファンを続けている方に対して、全く予想のできないような仕事を拝見できる面白さや喜びは本当にこちらの生きる原動力になる。その一つを見せていただいた気持ちになったし、手放しで2時間スクリーンに身を委ねて作品の世界にどっぷり浸るだけで、楽しい気持ちになれる贅沢さを久々に実感した。